WHITE PHOSPHORUS(WEAPON)=白燐弾(直訳)=黄燐焼夷弾(意訳)

訳語問題

WHITE PHOSPHORUS(WEAPON)

WHITE PHOSPHORUSは直訳では白燐と訳され、意訳では黄燐と訳されます。
WHITE PHOSPHORUSが武器として使用された場合は直訳では白燐弾と訳され、意訳では黄燐弾もしくは黄燐焼夷弾と訳されます。例えば、以下のように。

牧師はジュネーヴ条約を引用して、わが国は正義の軍隊であって、神を助けて大義を実現せねばならないと論じた。だがこんな道徳論では、現実的な兵士たちにはたいして効き目はない。ジュネーヴ条約は却下され、過激な意見が飛び出した。「ジュネーヴ条約では、黄燐焼夷弾を軍に向けて発砲してはならないと定めているから、敵の装備に当たったと主張すればいい」と教官に教わったが、と若き砲兵は言う−「条約を出し抜く方法をこっちが考えつくぐらいだから、敵だって考えついてるはずですよ」。また別の兵士も口を開いて、「ロシアの捕虜になったら殺されるかもしれない。敵に同じ薬を盛ってなにがいけないんです」。牧師の「正義」や「神を助ける」ということばに対して、冷たい雨に濡れた兵士たちの考えは「正義は銃身から生まれる」、「歴史は勝者がつくる」のほうへ傾いていた。
ジュネーヴ条約と黄燐焼夷弾>の話は、私もフォート・ベニングで聞いている。士官候補生学校での大砲の射角に関する講義でも、歩兵将校基本コースでも、レンジャー養成校でも、そして歩兵迫撃砲小隊将校コースでも聞かされた。捕虜の扱いについて述べたレンジャー養成校の教官は、自分の考えをはっきり伝えていたものだ。いわく、襲撃や待ち伏せの際には捕虜をとるものではないと。私の見るところ、レンジャー大隊出身の優秀な若い兵士たちは、大半がこのレンジャー養成校ばりの考えかたを身につけてくる。

「戦争における「人殺し」の心理学」P327-328より。
この「ジュネーヴ条約と黄燐焼夷弾」に関する記述が原文ではどうなっているか確認してみましょう。

The chaplain cited the Geneva conventions and discussed our nation as a force of righteousness and the support of God for our cause. To pragmatic soldiers this moral approach didn't go far.
The Geneva convention was dismissed,and our forward observer said that in school they had told him that “the Geneva convention says you can't fire white phosphorus at troops;so you call it in on their equipment. ” The young artilleryman's logic was “if we're gonna find ways around the Geneva convention,what do you think the enemy is gonna do?” Another said,“If we get captured by the Russians,we might as well kiss it off, so why not give them a dose of the same medicine?”To the chaplain's “righteousness”and“support of God”comments,the cold,wet soldiers' answers were along the lines of“righteousness comes out of a gun barrel” and “the victor writes history.”
At Fort Benning I too had heard the “Geneva convention and white phosphorous on equipment” line during the artillery pitch in Officer Candidate School,the Infantry Officer Basic Course,Ranger school,and the Infantry Mortar Platoon Officers Course.
The treatment of POWs had been addressed by an instructor at Ranger school, and he clearly communicated his personal belief that in a raid or an ambush,a patrol could not be expected to take POWs. I had noted that most of the outstanding young soldiers coming to us from the Ranger Battalion shared this Ranger-school belief.

「On killing」P203-204より。
これらを比較することにより「white phosphorus」が「黄燐焼夷弾」と訳されていることがわかります。
つまりwiselerさんの

とうぜん白燐弾≠黄燐焼夷弾と思っています

という発言などに見られる白燐弾と黄燐焼夷弾を別物とする認識は訳語に対する無知からくる誤りです。
また、“the Geneva convention says you can't fire white phosphorus at troops;so you call it in on their equipment. ”(ジュネーブ条約では白燐を兵に向けて撃ってはならないとされているから、装備に対して撃ったと言えばいい)という記述は、米軍では白燐の対人使用がジュネーブ条約違反と解釈されていること(とそれに対する言い逃れの方法)を示しており、つまりwiselerさんの

その前後に、とくにこの黄燐焼夷弾白燐弾であるような説明はありません。黄燐焼夷弾焼夷弾ですから、ジュネーヴ条約で禁止されていますし、いかなる対人使用も法律違反であることは当然です。

という発言も、同様に訳語に対する無知からくる誤りです。

MELT
Use of white phosphorus bombs by Ethiopia in Mogadishu
モガディシュ(地名)におけるエチオピア軍による白燐弾の使用


As one indication of the intensity of the fighting that took place between Ethiopian military forces and the Shabaab, during one battle, on 13 April 2007, at approximately 2015 hours, at Shalan Sharaf, in the Shirkole area of Mogadishu, Ethiopian military forces resorted to using white phosphorus bombs against the Shabaab. As a result, approximately 15 Shabaab fighters and 35 civilians were killed.

エチオピア軍とシャバーブ族の間で起こった戦いの激しさの一つの目安として、2007年4月13日のおよそ20時15分頃のモガディシュのシャーコール地域のシャランシャラフでのある戦いにおいて、エチオピア軍はシャバーブ族に対して白燐弾を使用した。その結果、およそ15人のシャバブ族戦士と35人の一般人が殺害された。


Witnesses who were present in the general vicinity at the time the weapon was used described the impact of the weapon as it "lightened the whole of Mogadishu". They also saw a "fireball". Witnesses further described the after-effect of the weapon by describing the bodies of the victims as having been "melted" and stating that the soil and the surrounding area were white in colour.

その武器が使われたときに丁度居合わせた目撃者はその武器の衝撃を「モガディシュ全体が照らされた」というように語った。彼らは「火の玉」も見た。目撃者は更に武器の影響について、犠牲者の体が「溶けていた」、そして、地面と周辺地域を色において白くしたと述べた。

国連公式記録「S/2007/436」段落30から31より。翻訳は引用者による。
このように白燐弾の被害に関する報道では、しばしば、犠牲者の体が「溶けていた」(melted)と表現されます。
これを化け学的な意味で捉えて誤解する人がいるので説明すると、この場合の「melt」は熱傷の状態を表現するのに使われる言葉です。漢字としては、常用外なものの、「融けていた」と書いた方が意味が伝わりやすいでしょう。
白燐は高温で燃える物質であり、燃えている白燐を浴びれば熱傷を負うのは当然のこと。
そういう熱傷で融解した傷に対して英語では「melt」という言葉を使うわけです。
白燐弾報道の否定においての犠牲者の体が「溶けるわけがない」という批判は「melt」を融解ではなく溶解と誤解したことによるもので、それは英文を読解できればありえない誤解です。結果としてそれは、誤解から虚像を作り出し、その虚像を虚構と批判するデマとなっているわけです。

機能問題

WHITE PHOSPHORUS(SMOKE)は焼夷兵器としても使われる

Smoke shells made up a large fraction of the service's output of mortar ammunition. Authorized smoke fillings included white phosphorus(WP), a solution of sulphur trioxide in chlorosulfonic acid(FS), and titanium tetrachloride. “The American white phosphrums ammunition was outstandingly good,” wrote Generalleutnant Ochsner, after the war.
These shells threw up a large volume of dense white smoke that was useful as a marker or as a smoke screen. Burning chunks of phosphorus flying through the air frightened enemy soldiers. Phosphorus could ignite dry underbrush, hay, paper, and other combustibles, and thereby serve as an incendiary. And finally the agent could cause casualties among enemy troops by inflicting burns. Mortar squads fired quantities of WP second in volume only to HE. 0ver three million WP shells came from filling plants in the United States, more than all other mortar shells came from filling HE−combined. In comparison, the service procured only one-third of a million FS smoke shells, and none containing titanium tetrachloride.
The German Army would have been happy to have had the same plentiful supply of WP as the American Army, but Germany lacked the raw materials for producing phosphorus, and its army had to depend on inferior Berger mixture or on sulphur trioxide.

煙幕弾は迫撃砲弾の役割において大きな部分をなしている。代表的な煙幕剤は白燐(WP)、硫黄三酸化物のクロロスルホン酸溶液(FS)、そして、四塩化チタンである。戦後、オクスナー中将が書いたところによれば「アメリカ製の白燐弾は際立って良かった」
これらの砲弾はマーカーや煙幕として有効な大量の濃い白い煙を上げた。空中を飛んでくる燃えている燐の塊は敵兵を怖がらせた。燐は乾いた下ばえ、干し草、紙、その他の可燃物に火をつけることができ、焼夷兵器としても使われた。最終的に燐は火傷を負わせることによって敵兵を殺傷することができた。迫撃砲隊はHE*1に次ぐ量の白燐弾を発射した。三百万を超える白燐砲弾がアメリカ本土の工場(充填施設)から送られ、それはHEを除く全種類の砲弾の合計より多かった。比較すると、FS煙幕弾は三十数万だけ調達され、四塩化チタンはなかった。
ドイツ軍も米軍同様に白燐弾の豊富な供給があれば幸福だったのだが、しかし、ドイツは燐を生産するための原料が不足しており、ドイツ軍は劣悪な混合物か三酸化硫黄に依存するしかなかった。

「The Chemical Warfere Service」P135より。翻訳は引用者による。
「The Chemical Warfere Service」は米軍の化学戦の歴史に関する本です。この本ではwhite phosphorusに対しsmoke(煙幕)とincendiary(焼夷)が別々に説明されていますが、引用部分はsmokeに関して説明している部分から引いたものです。
白燐(黄燐)は燃焼時に激しく煙を出すと同時に高温で燃える物質です。
白燐弾は燃えている白燐の破片をばら撒く兵器であり、ばら撒かれた燃えている白燐の破片は煙幕を生成するだけでなく、ばら撒かれた範囲に可燃物があれば着火し、人がいれば殺傷するわけです。WHITE PHOSPHORUS(WEAPON)の「煙幕と焼夷の両用」というのは、どちらか片方の機能を発揮するということではなく、両方の機能を発揮するということです。
仮に「大抵の煙幕弾に焼夷効果や殺傷効果はないから、煙幕弾に分類される白燐弾にもそういう機能はない」というように考える人がいるとしたら、それは先入観による思い込みでしかありません。
つまり、wiselerさんが言うような

私が述べたいのはそのサイトで言えば http://www.globalsecurity.org/military/systems/munitions/wp.htmにあるWhite Phosphorus (WP) - IncendiaryとWhite Phosphorus (WP) - Smokeの違いです。M74やM47A2が黄燐を使用していて、かつ発煙効果がないと思っているので私の想定している黄燐焼夷弾にあたります。 http://www.globalsecurity.org/military/systems/munitions/dumb.htmには両方とも掲載されているもののサブページがないため専門的な解説はわかりませんでした。しかし私が調べた限りで発煙効果はないようです。

というのは、無知と無理解による誤りでしかないということです。

用法問題

焼夷兵器の用法は様々ですが、説明のためにその代表的用法の一部を以下にあげます。

  • より効率よく破壊するための手段としての焼夷兵器
  • 運動エネルギー兵器では攻撃困難な対象を攻撃できる兵器としての焼夷兵器
より効率よく破壊するための手段としての焼夷兵器

第二次世界大戦での日本やドイツに対する戦略爆撃において焼夷兵器が多用されたのはよく知られていることです。
工場地帯やインフラを攻撃することで生産能力を破壊し、人口周密地域を攻撃することで銃後を支える国民の生命と財産を破壊し、もって、敵の継戦能力を破壊する戦略爆撃
その戦略爆撃で何故、焼夷兵器が多用されたかといえば、単純に言えば、通常爆弾のような運動エネルギー兵器だけでは不効率だから。
破壊自体は運動エネルギー兵器だけでも可能でも、運動エネルギーで家財を破壊するだけでは再利用可能なものが残りやすいですし、頑丈な外壁に守られた住人を殺害することもできません。
その一方で家財はしばしば可燃物であり、人間はそれらに囲まれて生活しており、焼夷兵器はそれらに着火し火災を引き起こすことができるわけです。
焼夷兵器を使用し家財に着火して火災を引き起こすことにより、家財を効率よく破壊できますし、引き起こされた火災による焼死、熱死、(一酸化炭素など燃焼に伴って発生する毒性物質などによる)中毒死は頑丈な外壁に守られた住人も殺害することができます。

運動エネルギー兵器では攻撃困難な対象を攻撃できる兵器としての焼夷兵器

焼夷兵器の運動エネルギーによる破壊力は徹甲弾や通常爆弾のような運動エネルギー兵器に劣るのが普通です。
例えば、火炎放射器の射程は火炎砲戦車搭載のものでも百数十メートル程度で、運動エネルギーによる破壊力は殆どありません。
しかし、歴史が示しているように、それでも戦場で使われました。
理由の一つとしては、焼夷兵器は運動エネルギー兵器で攻撃困難な対象を攻撃できる場合があるから。
例えばトーチカ。トーチカの銃眼から攻撃してくる敵を運動エネルギー兵器で倒すことは難しいですが、火炎放射機であれば銃眼に向けて放射することでトーチカの内部に燃える焼夷剤を流し込み、それにより(運動エネルギー兵器では殺傷が困難な)トーチカ内の敵兵を倒すことができます。


これらのことは当然すぎて説明不要なことと思うのですが、こういう当然のことを知っていれば、焼夷兵器の能力を運動エネルギーによる破壊力において通常の砲弾と比較し、焼夷兵器の方が劣ることを理由に、その有用性を否定するような素人騙しに引っかかることはないと思います。逆にいえば、こういうくどくどとした説明を行うのはそういう素人騙しに引っかかる人が存外に多いように思えるからなんですね。

榴弾では攻撃困難な対象を攻撃する手段としての白燐弾

第一次世界大戦での戦線の膠着ぶりから明らかなように塹壕(あるいは要塞などの掩蔽)にたてこもる歩兵は砲撃に対して非常に高い防御力を発揮します。
榴弾の破片は爆発により放射線状に飛び散るので、複雑に折れ曲がった塹壕線は直上での炸裂でもない限り砲弾の破片から歩兵の身を守ってくれますから。
そういう榴弾に対し、白燐弾の破片は放射線状にではなく傘状に飛び散るので、広範囲にわたって直上から降り注ぐような形となり、直上での炸裂でなくても塹壕内の兵士を殺傷することが可能で、そのため第二次世界大戦では主に米英軍によって戦場で多用されました。

Attack teams consisted of one tank, an engineer team, a squad of riflemen, plus a light machine gun and a 60mm mortar. The Sherman opened the action. It plowed its pipe devices into the hedgerow, stuck the cannon through, and opened fire with a white phosphorus round into the corners of the opposite hedgerow, intended to knock out German dug-in machine-gun pits.
White phosphorus was horror. Lt.Robert Weiss got caught in a rare German barrage of white phosphorus shells (rare because the German supply was insufficient). He recalled the bursting of the shell, followed by “a snowstorm of small, white particles that floated down upon us. We looked in amazement, and eyes filled with instant terror. Where the particles landed on shirts and trousers they sizzled and burned. White phosphorus! We brushed our clothing frantically, pushed shirt collars up. If any of the stuff touched the skin,it could inflict a horrible burn, increasing in intensity as it burrowed into a man's flesh....
“Another shell. Another missile from hell. Fiery snow! I remember thinking that if the shelling kept up for long it would be more than most men could endure. There was nowhere to hide, no place that was safe.“ Fortunately, that was the last.

攻撃部隊は戦車一両、工兵部隊、小銃手分隊、加えて、軽機関銃と60mm迫撃砲から成っていた。シャーマン戦車は行動を開始した。砲身を生け垣に突っ込んで、砲口を通し、向かいの生け垣で隠れている場所へ白燐弾を撃った。機関銃陣地に伏せているドイツ兵をノックアウトするために。
白燐弾は恐ろしかった。ロバート・ワイス中尉は白燐弾によるドイツ軍の砲火という珍しい体験をした(珍しかったのはドイツ軍の補給品が不足していたから)。彼はその砲弾の炸裂をこのように思い起こした。「小さな白い粒が吹雪のように私たちの上に舞い降りてきた。私たちは驚き、瞳は即座に恐怖で満たされた。その粒がシャツやズボンに着くと、それらはじりじりと焼けて燃えだした。白燐だ!私たちは狂ったように衣服を払い、シャツの襟を立てた。もし、その物質が皮膚につくと、ひどい火傷を負い、それが体内に潜り込んでいくにつれて苦痛は増していく…」
「どんな弾やどんな飛び道具よりも忌々しい。炎の雪!もし、その砲撃がもっと長く続いていれば殆どの人は耐えられなかっただろうと考えたことを私は忘れない。そこに隠れられる場所は無く、安全な場所は無かった」幸運なことに、それがその最後だった。

Citizen Soldiers」P67-68より。翻訳は引用者による。
Citizen Soldiers」はノルマンディー上陸作戦以降のドイツ西部戦線での戦争を主題にしたノンフィクションです。
この引用文から米軍もドイツ軍も白燐弾を攻撃兵器として用いていたことが分かります。
まさか、そんな勘違いをする人はいないだろうとは思いますが、「as it burrowed into a man's flesh(それが体内に潜り込んでいくにつれて)」というのは燃えている白燐の破片が、焼夷効果により人体組織が破壊された分、人体内に入り込むということで、白燐の破片が生き物のように動くわけではありません。*2
白燐は火が消えにくく、人体にくっついて取れにくいので、燃えている白燐の破片を浴びて適切な治療を受けられないと、穴のように組織が失われた深い火傷を負うことになるわけです。
引用文中の「There was nowhere to hide, no place that was safe.」という言葉は通常の運動エネルギー兵器とは異なる白燐弾の性質をよく示していると思います。運動エネルギー兵器には塹壕などの遮蔽物に隠れることでの防御が有効なのに対し、広範囲にわたって直上から破片が降り注ぐ白燐弾を攻撃に使用されると、その破片から身を守ることができるような隠れる場所は野戦においては殆ど無いわけです。(これは、塹壕や狭い路地に潜む相手にも有効な兵器であることを意味します。つまり、「レイテ戦記」で描写されているような白燐弾の用法は正しいということです。)
白燐弾報道否定論では、初期から、白燐弾榴弾の破壊力を運動エネルギーで比較して白燐弾の兵器としての有用性を否定するものが見られました*3が、そういう運動エネルギーによる破壊力の低さをもってその使用の「不合理」を指摘するような否定論は戦場での焼夷兵器の用法に対する無知と無理解による誤りというものです。*4

法的問題


Incendiary weapons are weapons or munition primarily designed to set fire to materials or objects or to cause burn injury to persons through the action of flame,heat,or a combination thereof. Examples are:flamethrowers, fougasses(hand-held weapons containing liquid incendiaries), shells, rockets, grenades, mines, bombs, and other containers of incendiary substances(Article 1, para. 1 lit.a, IncendiariesProt).

焼夷兵器とは、炎や熱やそれらの組み合わせの作用によって物に火をつけたり人に火傷させたりすることを主目的に設計された武器または軍用品。
例:火炎放射機、fougasses(液体焼夷剤を収容している手持ちサイズの武器)、砲弾、ロケット、手榴弾、地雷、爆弾、その他の焼夷剤の運搬容器(Article 1, para.1 lit.a, Incendiaries Prot)


0ne of the main topics of the 1980 UN Weapons Conference was the issue of incendiary weapons (the US air force use of napalm bombs in Vietnam were still fresh in the memory). Some of the states participating at the conference(including Sweden, Mexico, and the majority of the non-aligned states) demanded a complete ban on incendiary weapons, for these weapons-such was the argument-always cause unnecessary suffering and generally have also indiscriminate effects; but the superpowers, led by the USA and the USSR, openly declared that-due to the military importance of incendiary weapons-they would accept, at the maximum, a few(and limited)restrictions on the use of such weapons. The traditional military powers thought these weapons to be militarily absolutely necessary to attack certain objectives, and particularly specific operations such as ‘close air support' in the combat zone against immediately adjacent enemy positions. A compromise only became possible when the delegation of the USA began to request a prohibition of all air-launched attacks by incendiary weapons(including napalm)in settlements and populated areas, thus providing an opening for the resumption of the stalled negotiations. The resulting definition of the incendiary weapons covered by protocol III of the WeaponsConv is extremely broad, since it includes not only incendiary materials based on hydro carbon(like napalm)but also all means of combat designed to set fire to objects or to cause burn injury to persons through the action of flame, heat, or a combination thereof. The only important factor in the definition is the causation of burns through chemical reaction of a substance brought on the target.

1980年の兵器に関する国連会議の主題の一つは焼夷兵器についてだった(ヴェトナムでの米空軍によるナパーム弾の使用はまだ記憶に新しかった)。会議に参加している国々のいくつか(スウェーデン、メキシコ、及び非同盟国の大多数)は不必要な苦痛をもたらし、一般的に無差別な影響も持つ、そういう焼夷兵器の完全な禁止を要求した。しかし、米国やソ連といった超大国は、焼夷兵器の軍事上の重要性から、最大限でも、わずかな(かつ、限られた)使用制限しか受け入れられないと公然と主張した。この伝統的な軍事大国たちはこれらの兵器が軍事的に特定の目標への攻撃、とりわけ戦闘地域の敵位置近傍に対しての即座の「近接航空支援」のような特定の作戦行動に必要不可欠と考えた。米国の代表派遣団が、このようにして行き詰まった交渉の解決の糸口として、住宅地や人口周密地域での全ての空中発射された焼夷兵器(ナパームを含む)による攻撃の禁止を要望しはじめたとき、妥協するしかなかった。特定通常兵器使用禁止制限条約議定書IIIにカバーされる結果として生じる焼夷兵器の定義は、(ナパームのような)ハイドロカーボンを基材とした焼夷性物質だけでなく、炎や熱やそれらの組み合わせの作用によって物に火をつけたり人に火傷させるように設計された全ての戦闘手段であることから極めて広い。定義において唯一の重要な要素は、物質の化学反応を通した焼夷効果を標的にもたらすことだ。

「The Handbook of International Humanitarian Low」P156より。翻訳は引用者による。
「The Handbook of International Humanitarian Low」は題名の通りの国際人道法の手引き書です。
焼夷兵器の非人道性は昔から問題視されており、特にベトナム戦争の結果、その規制が国連会議の議題となりました。
規制を求めた国々が焼夷兵器の完全な禁止を要求したのに対し、米ソといった超大国は、焼夷兵器の使用が自国の軍事行動に必要不可欠だと考えました。このことによる妥協の結果、焼夷兵器は(材質ではなく効果により規制される一方で)、完全な禁止ではなく、用法で規制されることになったわけです。
焼夷兵器が使用制限された理由は、当然のことですが、運動エネルギーによる殺傷力が高いからではありません。
理由の一つは、ベトナム戦争での報道が示したように、焼夷兵器が苦痛兵器としての性格が強い兵器だからです。
焼夷兵器の犠牲者は長時間苦しみ、生き残ってもケロイドなど一生続く障害を負う可能性が高いのです。
そういう焼夷兵器による被害と白燐(黄燐)が深刻な被害をもたらす焼夷剤の一種であることについてはhigetaさんの記事焼夷兵器に関する国連事務総長報告書 - 日本近現代史と戦争を研究するが詳しいので是非、読んでほしいと思います。


特定通常兵器使用禁止制限条約議定書IIIによりその使用が制限された焼夷兵器ですが、用法による規制には問題がありました。用法による規制は用法を偽ることにより言い逃れすることが可能だからです。
対人使用しておきながら「装備に向けて撃った」と言ったり、人口周密地域で焼夷兵器として使用しておきながら「煙幕として適切に使用した」と言ったりというように。
こういう言い逃れによる条約の空文化の危険性は当時の議論でも懸念されていました。
このような経緯を踏まえていれば、白燐弾報道否定論における「焼夷兵器を使いたいのであればナパームを使えばいいのに」というような否定*5がどうしようもない愚論であることが分かります。
白燐弾は煙幕と焼夷の両用兵器であるがゆえに用法を偽ることで言い逃れを試みることができる兵器ですが、ナパームはそうではありません。
例えば、イスラエルの場合。イスラエルが表向きには国際条約を破っていないことにしたがっていることは、報道で見られるスポークスマンの発言から明らかであり、ナパームを使うという明確な条約違反は仮にイスラエルがナパームを所持していて戦術的には実施可能であったとしても政治的には実施不可能というものです。批准していない国際条約に違反しても非難され政治的にダメージを負うのですから。それは「北朝鮮と宇宙条約の場合」からも明らかというものでしょう。


白燐弾に関する報道では様々な報道*6白燐弾の「人口周密地域での白燐の焼夷兵器としての使用」がジュネーブ条約に違反するというように報道されていますが、それは特定通常兵器使用禁止制限条約議定書IIIの解釈として正しいものであり、それを否定する方が誤りです。*7

In the context of the need for unswerving compliance with the Convention and its protocols, the use of white phosphorus as an incendiary weapon in populated areas by a State party to the Convention was unacceptable, and a gross violation of Protocol III. It could not in any way be considered to be a legitimate weapon in the planning and conduct of tactical operations.

本条約及びその議定書の揺るぎない遵守の必要性において、締約国による人口周密地域での白燐の焼夷兵器としての使用は許容できないし、議定書IIIの著しい違反である。それは、作戦の計画と指揮においてどのような形であろうと合法的兵器とみなすことはできない。

国連公式記録「CCW/MSP/2005/SR.1」の段落31より。翻訳は引用者による。
このように「特定通常兵器の使用に関する国連会議」での「手順の原則の確認」においての発言でも「人口周密地域での白燐の焼夷兵器としての使用」は「特定通常兵器使用禁止制限条約議定書IIIの著しい違反」と解釈されていることを確認できます。
当然のことですが、条約の制定には歴史的経緯と議論の積み重ねが有り、その過程で条文をどのように解釈し運用するかも議論されます。(その結果はそれぞれの国の軍隊の交戦規程に反映され、交戦規程にどのように反映されているかについては書籍などを読むことにより間接的に知ることができます。)
そういう経緯を無視しての条文だけを読んでの独自解釈には意味がありません。
つまり、wiselerさんの

白燐弾は法律上焼夷兵器には該当しません

という発言などに見られる解釈はそういう歴史的経緯と議論を無視した無知と無理解による誤りです。
そもそも、欧米の報道機関では、通常、学問としての軍事を修めた人が軍事問題担当記者を務めるわけです。その解釈を否定するということは、学問としての軍事知識に基づいた発言をオタの受け売りレベルの知識で否定するのも同然なわけで、それだけで、十分、常軌を逸していると私は思います。

イスラエル軍のガザにおける白燐弾使用の被害

チームはまたガザの主要病院であるシファ病院も訪れた。そこで彼らはリンによる火傷などの傷の処置の難しさについて医療スタッフと話をした。火傷治療担当のチーフが語ったところでは、最初、スタッフたちは白リンによる傷を処置していたことに気づかなかったという。彼は、不快な臭気を放ちながらどんどんひどくなっていく尋常でないオレンジ色の火傷について説明してくれた。数時間後には、傷から煙が上がり始めたという。

「私たちは頭に傷を負った3歳の子どもを診ました。3時間後、ガーゼを換えるとき、傷から煙が立ち上りました。私たちは傷を切開し、このくさびを取り出しました。それは私たちが今までに見たこともないものでした。後に、同僚であるエジプトとノルウェーから来た医師たちがガザに入ることができ、これが白リンだと教えてくれたのです」と、医師は語った。

また医師は、「私たちはこれについて様々なことに気づきました。この火傷は治りません。リンはおそらく体の内部にとどまり、そこで燃え続けるのです。患者の状態は大体において悪化します。通常、体の表面の10〜15パーセントの火傷なら回復を期待できるのですが、今はそのような患者の多くが死亡しています」と語った。

http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=583

イスラエルが当初、白リン弾を使用したことを認めなかったために、医師たちは正しい治療をすることができなかった。肉に食い込んだ白リンの小片は燃え続け、火傷が拡大深化するにつれ激痛を引き起こす。そして、内臓に回復不能な傷害をもたらすのだ。それは患者の身体の他の部分、もしくは傷を治療する人たちにさえ悪影響をおよぼす。

「私たちは今まで治療した症例とは異なる火傷であると気づきました。数時間後、火傷は拡大深化し、不快な臭気を発散し、そして発煙しはじめたのです」と、ガザのアルシファ病院の火傷の専門医はアムネスティに語った。

白リン弾による火傷を負った人びとの症状は急速に悪化することがある。身体の表面の比較的小さな領域、10〜15パーセントに火傷を負った人たちは、通常は生存するものだが、こうした人びとでさえ悪化して死ぬことがあるのだ。医師たちが白リン弾による最初の犠牲者を診た数日後、多くの外国の医師たちがガザ地区に到着してはじめて、地元の医師たちは傷を引き起こしたものの正体と治療法を知ったのである。

16歳の少女のサミア・サルマン・アルマナヤは、ガザ市の北にあるジャバリア難民キャンプの家で寝ていた1月10日の午後8時、白リン弾が家の1階に着弾した。10日後、病院のベッドで彼女はアムネスティに対し、顔と足の火傷のためにまだ激痛があると語った。「突き刺すような痛みです。まるで私の身体の中で火事が起きているみたいです。とても痛いので我慢できません。どんな薬をもらっても、痛みはまだとても強いんです」

どんなものであるかを知らないまま、白リン弾あるいはそれから派生した燃える残骸が当たった家のパレスチナ人たちはあやまって炎に水をかけたが、火勢を強めるだけだった。医師たちが気づかずに食塩水で患者たちの傷を洗おうとしたために、患者たちは痛みのあまり叫び声をあげた。また、医師たちは患者の火傷のガーゼを交換したとき、傷から煙が立ち上るのを見て衝撃を受けた。検査のための手術を行なった際、医師たちは空気にさらされると直ちに燃えはじめるフェルトの小片を摘出した。

http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=589

白燐弾には幾分かの破片効果による殺傷力もあること、白燐が焼夷剤の一種であると同時に猛毒でもあること、燃えている白燐に下手に水をかけると煮えたって飛び散り、より激しく燃え上がることを考えれば、これらのアムネスティの記事を単純に否定する方がおかしいというものでしょう。

この記事について

この記事はかなり前に書いたwiselerさんに反論するための記事を若干手直ししたものです。
http://megalodon.jp/2009-0128-1442-13/d.hatena.ne.jp/wiseler/20090114/p1でのwiselerさんの応答次第でアップする予定でしたが、wiselerさんが応答せず、マジコン騒動の影響かプライベートモードにしてからID削除したことによりお蔵入りになっていたものです。
id:HiiragiJPさんの

HiiragiJP 議定書条文に「焼夷兵器には、次のものを含めない。焼夷効果が付随的である弾薬類。例えば、照明弾、曳光弾、発煙弾又は信号弾」って書いてあるのにスルー。なお人を殺したいなら発煙弾なんか使わず榴弾を打ち込む 2010/08/23

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090114/p1

という発言によりアップすることにしました。
各種報道に関わらず未だにこういうことを発言をしてしまう人がいるということですから。

白燐弾報道否定論に対する私の見解は他人の主張を「嘘」「デマ」と言って回ってる人間がなに泣きごと言ってんの?(追記あり) - Apes! Not Monkeys! はてな別館でのブックマークコメントと変わっていません。

D_Amon 白燐弾, 議論 この問題は、南京事件否定論を展開する人々が、実の所、それは「無知の無知」による増長でしかないのに、自分のことを論理的で現実的で世の中のことを分かっていて思想的中立だと思い込んでいたのと似ていると思う。 2009/01/23

はてなブックマーク - 他人の主張を「嘘」「デマ」と言って回ってる人間がなに泣きごと言ってんの?(追記あり) - Apes! Not Monkeys! はてな別館

白燐弾報道否定論は「無知の無知」によるものと思っています。白燐弾報道否定論の正体は「素人騙し」というより「無知の無知」による「井の中の蛙」現象という方が実態に近いだろうと推測します。
私は、白燐弾報道否定論において被害に関する証言や人権団体の告発を嘲笑していた人々を許しがたいと思っています。
しかし、その一方で、選択的無知ではなく「無知の無知」なのであれば、いつの日か自らの無知を自覚し反省する日がくる可能性がある分、マシとも思います。
そのような人々が、もし自らの間違いを知ったとき、(「恥をかかされた」と逆恨みするのではなく)「自らが恥ずべきことをした」と自省できるような精神性の持ち主であることを祈らずにはいられません。


あと、この記事で洋書などから英語の記述を引用して翻訳しているのには理由があります。
白燐弾と黄燐弾(あるいは燐酸弾)を別物と思い込んでいる人々に対してはWHITE PHOSPHORUS(WEAPON)を意味する言葉として黄燐弾とか黄燐焼夷弾とかが使われている日本語の記述を説明のために引用しても意味がないことは明らかだからです。
信じたくないことに対して信じない理由探しをするような人に邦訳書籍の意訳や誤訳でわざわざ信じない理由を与える必要はありません。(私自身の意訳や誤訳に関しては原文がありますしね)
まあ、この手のことに関して詳しい情報が書かれているような日本語書籍が少ないのも理由の一つなんですけどね。
欧米とは異なり、日本は民間一般において学問としての軍事がほぼ死滅状態な国*8で、その差が軍事関連書籍の程度にも表れていますから。
白燐弾について機能説明がきちんとされていたWikipedia英語版と、「焼夷効果は持っていない」という記述が長期間そのままだった上に編集ノートでは英語版の記述をトンデモ扱い*9していたWikipedia日本語版の差は、ある意味、その差の表れというものでしょう。
軍事における学問的知識の空白からオタレベルの知識で専門書や戦史に普通に載っているような(かつ、以前のネットには載っていなかったがゆえにネット検索では調べられなかったような)ことを否定しているのが日本独特の白燐弾報道否定論の実態というものではないかと私は推測します。
仮にそうだとして、この件に関しては受け取る側が「オタは専門家ではない」、「オタは所詮オタでしかない」、「オタ的視野狭窄に注意」というようにリテラシーを発揮すべき事例というものだと私は思います。
例えば、軍事に関してGlobalSecurity.orgよりオタの言うことの方を信じるなんていうのは常軌を逸していると思うんですよね。
というわけで、日本の軍事オタクの言うことより欧米の(例えば、軍事の専門知識を持つ軍事問題担当記者の)報道の信頼性の方が高いという当然の話。
「欧米の報道の方が間違っていて日本のオタの方が正しい」なんて考えたりするのは陰謀論的な認識というものだと私は思います。

*1:High Explosive=高性能爆薬の略語。つまり、通常の榴弾

*2:世の中には無理な曲解をした上でそれを否定するというような論法を使う人もいるので念のために。

*3:数年前にここにも来た

*4:白燐弾の焼夷効果や殺傷力を否定し、白燐弾の被害に関する報道を「超兵器プギャー」という感じで笑い飛ばしていた人々には、自らの身を燃えている白燐の破片が降り注ぐ直下において超平気かどうか確認してほしいものだと思わないでもありません。それで何が解決するわけでもないのは分かっていますが、犠牲者の苦痛を考えれば許し難いという感情を覚えます。

*5:焼夷砲弾による対都市砲撃は軍事目標に対してであっても条約違反 - 模型とかキャラ弁とか歴史とかのコメント欄にも来た

*6:例:The Times & The Sunday Times「The Geneva Treaty of 1980 stipulates that white phosphorus should not be used as a weapon of war in civilian areas, but there is no blanket ban under international law on its use as a smokescreen or for illumination.)」、ガザ攻撃での白リン弾使用、イスラエルが調査開始 写真11枚 国際ニュース:AFPBB News「白リン砲弾は、含有する化学物質が酸素と接触して燃えるときに大量の煙を発生させることから、部隊の動きを隠す煙幕生成などに使われる。ただ、人間に対して使われると激しいやけどの原因となることから、国際法で人口密集地などでの使用は禁止されている」

*7:砲弾が煙幕弾と名づけられていようが、人口周密地域で燃える白燐の破片をばら撒いたりしたら、その白燐の破片が焼夷兵器として扱われるのは当然という話。燃える白燐の破片が焼夷効果を標的にもたらすことは当然のことなのですから。

*8:民間一般において軍事がサブカルでしかない国。一部の幹部自衛官の言動に見られるようにプロの知識も怪しいのはおいといて

*9:日本語版の記述の方がトンデモだったのに英語版の記述の方をトンデモ扱いして英語版wikipediaの翻訳を日本語版に追加掲載することを拒んでいた。