どちらが信用できるかの問題

白燐弾報道を否定している人々のことを、私はその発言の突飛さから「トンデモさん達」と呼びましたし、今でも彼らのことをトンデモと思っています。
何故トンデモかといえば、無知や論理的整合性の欠如に基づいた珍説を信奉しているからです。

私自身はトンデモさん達に同情するところがあります。何故なら彼らは科学的手法という今の文明の礎となっている思考ツールを使いこなすことができないからです。
トンデモを否定する科学精神は本来、人とともにあるものです。にもかかわらず世の中にオカルトや似非科学といったトンデモが溢れているのは、人間の構築した社会の方に問題があるからです。問題の一端は視聴者の興味を引くためにセンセーショナリズム過剰なマスメディアにもありますが、公教育にもあります。
トンデモに嵌る人の多くは論理的に厳密に考えるといった科学的手法を公教育で身につけることができなかった人だからです。
例えば、科学的手法の一つである論理学は義務教育で学ぶ機会は少ないものです。その一分野に数学の授業で僅かに触れるだけです。教科書の内容自体、論理的思考力を養うより丸暗記の方に重点があります。こういう教育自体が本来は多くの人が身につけることが可能な科学精神の獲得を阻害しています。
公教育で優秀な成績を収めた学識者でもオウムのようなカルトに簡単に騙されたりすることは、公教育が科学的手法に基づいた懐疑精神の獲得にあまり役立っていないことの証拠の一つとして挙げていいでしょう。
現実社会にB層と呼ばれる論理的に厳密に考え抜くことを放棄して単純で「分かりやすい」考え方に飛びつく人間が多いことも、その証拠の一つとして挙げていいでしょう。
現実社会が「科学的手法が普及していないトンデモの蔓延りやすい社会」であることは、どうしようもない客観的事実です。
トンデモさん達は、ある意味、現代の公教育の犠牲者といえるでしょう。

閑話休題
白燐弾報道を否定しているトンデモさん達の論理的思考力の欠如は明らかです。
例えば、彼らは「白燐の対人使用は条約違反」という明確な事実を認めません。
私は公刊書籍を基に「白燐の対人使用は条約違反」という事実を示しましたが、それは白燐を照明や煙幕といった対人使用以外の用途に使用することを否定していません。
しかし、これに対する反応を見る限り、トンデモさん達は「白燐弾の対人使用の禁止」と「白燐弾の使用全体の禁止」という条件の違いが分からないようです。
事実の指摘に対し「それが事実であるならば各国で白燐弾が規制されているはず。そういうことはないのでそれは事実ではない」という感じの「反論」を行っているのですから。なんというか論理学的に何重にも間違っています。
これは彼らが論理的に厳密に考えられない証拠です。論理的条件がある程度以上の数になると、論理的思考法を身につけていない彼らの思考力では認識できなくなるのでしょうね。

また、彼らは私の記事を信用できないとし、私が「白燐粉塵が飛び散る」と主張していることをその根拠としています。
私は過去の白燐弾(黄燐焼夷弾)の犠牲者に関する知識から白燐弾の用法によっては白燐粉塵が飛び散りうることを知っていたので、その事実に基づいた知識を書いただけなのですが。(その仕組みについても前回の記事で説明済み)
にもかかわらず、トンデモさん達はどういうわけか「白燐粉塵が飛び散るなんてありえない」という前提のもと、これを批判している様子。しかも、その根拠は不明で、基本的に彼らの勝手な「科学的解釈」に基づいた思い込みに過ぎません。(白燐が粉塵になって飛び散らないのであれば、白燐弾の使用で広範囲に火傷を負ったカレン民族同盟兵士をどう説明するのでしょうね。「白燐弾による被害」という前提条件そのものを否定するのでしょうか)
「白燐粉塵が飛び散るなんてありえない」というのが彼らの「定説」というわけです。よって「定説」に反する発言をする人間は信用できないと。(どこぞの似非科学を振り回すカルトにそっくりですね)
まあ、いいでしょう。別に私を信用する必要はありません。ビリーバーは信じたくない事象に対しては信じない理由を探すものですし。
「白燐粉塵が飛び散りうるかどうか」という問題は、以下に引用する専門家の発言を信じるか、トンデモさん達のような無知な素人の発言を信じるかの問題です。

燃える雨3(「ファルージャ 隠された大虐殺」ほぼ完全日本語訳−後半)より

弾頭から出るガス、つまり白リンは、散って雲のようになる。そして、皮膚に触れると、取り返しのつかない被害が生じる。肉が骨まで焼ける。服は必ずしも焼けないが、服の下の皮膚は焼ける。だから、防御マスクは役に立たない。マスクのゴムを通して顔まで届くから。呼吸したらのどと肺に水泡ができて息ができなくなり、体が内側から焼ける。白リンは、基本的に皮膚、酸素、水に反応する。湿った泥を使うことによってのみ焼けるのを止めることができるが、基本的には止めることは不可能だ。

伊紙分析記事「白燐弾(白リン弾)の有害性・残虐性について」より

拡散した発火性の燐微粒子が肌に付着して燃え続ければ、広範囲かつ痛みの伴う火傷を引き起こす。ここで細胞組織上の水分吸収・酸化腐食作用が加わり、呼吸で肺に吸入される蒸気が炎症を起こす。これらの悲惨な効果により、武器としての人への使用が犯罪行為と考えられているのです。

上記の引用文は、上はRAIの報道の元米兵ジェフ氏の発言、下はボローニャ大学化学・分析部マルコ教授の発言。
両者とも、用いる言葉は異なりますが、白燐の粉塵が飛び散ることと、それによる被害を説明しています。
さて、米軍で兵器の効果について教育を受けた元兵士や化学の専門家であるボローニャ大学化学・分析部教授と、国際条約や黄燐焼夷弾について無知に基づいた妄言を繰り返したトンデモさん達のような素人、どちらの発言が信用できますか?
私は迷い無く前者を信用します。それは、私が権威主義だからではなく、己が知識と照らし合わせて、前者の主張の方が誠実で論理的整合性もあると考えるからです。

トンデモさん達の実際の人数は少ない

とりあえず安心したことは、珍説を流布しているトンデモさん達やそれに影響される人の実際の数は少ない可能性が非常に高いということ。
珍説の流布をしている主なサイトは「週刊オブイェクト」と「軍事板常見問題」なのですが、これらのサイトからの一日でのユニークアクセス数は両方ともせいぜい十件前後。つまり両サイトの実アクセス数は低い可能性が非常に高いということです。
対して、「FWF-フットボールは未来の兵器である」からのユニークアクセス数はその倍くらい。
珍説を流布しているトンデモさん達は活動が活発で「ネット上での多数派工作」に熟達しているだけで、実際の数は少ないのでしょうね。