弾道ミサイル防衛は破れ傘

弾道ミサイル防衛はSDIの縮小版に過ぎません。ゆえにSDIと同様の問題を抱えており、SDIと同様の手法で無効化されてしまいます。
SDIは弾道弾迎撃のために構想されたものですが、レーザーとかレールガンとか各種弾道弾撃墜用衛星とか当時の技術では実現性の低い明らかに無理のある計画でした。
弾道ミサイル防衛はそのSDIの計画の一部にあった迎撃ミサイルを発展させたものです。当時との違いは、技術進歩に伴う誘導精度向上により、迎撃ミサイルを直撃させることで弾道弾を破壊できる可能性がでてきたことぐらい*1。とても信頼できる防御手段とはいえません。
飽和攻撃、潜水艦発射弾道弾、機動性弾頭と弾道ミサイル防衛を破る方法は色々とあります。
飽和攻撃は相手が対応できる以上の数の攻撃を加えること。同時に対応できる以上の数の攻撃を防御できないのは当然のことです。
潜水艦発射弾道弾(SLBM)は潜水艦が標的に隠密に近づくことで標的の近くから発射可能。短距離から発射されれば迎撃のために必要な時間と距離を取れず防御できないというわけです。
機動性弾頭(MaRV)は弾頭自体に軌道変更可能な装備をした弾頭のこと。弾道弾迎撃ミサイルは弾道弾がロケットによる打ち上げ後は慣性で弾道飛行を行なうことが前提。機動性弾頭はその前提を壊す兵器というわけです。
弾道弾迎撃ミサイルは、各種レーダーの情報から弾道弾の軌道要素を計算し、それに基づいて弾道弾の未来位置を予測し、その未来位置に向けて迎撃ミサイルを打ち上げ、赤外線探知装置で微調整を行なって弾道弾に直撃させるという仕組みになっているわけで、標的が軌道変更すれば未来位置の予測が成り立たなくなり無効化されてしまいます。
MaRVは技術的には1980年代にも実現可能だった兵器で、軌道変更可能な人工衛星を軌道投入できる国であれば開発可能。弾道弾を迎撃する手段が無ければ、多弾頭(MRV)や複数目標個別誘導弾頭(MIRV)でも目的が達成できるため、必要の無い兵器ですが。
現代であれば米中露*2には開発可能。今の構想のままなのであれば、弾道弾迎撃ミサイルは既知の手段で無効化可能な兵器です。
これらに加えて、洋上レーダーシステムを巡航ミサイルで破壊するなど弾道ミサイル防衛施設の破壊や迎撃ミサイル自体を撃墜するといった防衛手段自体への攻撃も無効化手段となります。
迎撃手段を無効化するには探知・測定・迎撃・撃墜のいずれかの過程を役に立たなくすればいいわけで、探知されない方法、例えば早期警戒衛星*3の撮像周期より短い時間で弾道弾の加速を終えることで探知されない可能性を上げたり、レーダーによる軌道測定を困難にするために妨害電波を出したり、弾道弾自体をステルス化したりと様々な対抗手段が考えられます。


そもそも、弾道ミサイル防衛自体が防御力の強化も軍事バランスを壊すということに無頓着な構想です。
現状、核戦力の軍事バランスは相互確証破壊によります。それゆえ、相手を確実に破壊できる核戦力が軍拡の上限となり、それ以上の軍拡は無意味となり、そこで軍拡は止まります。
弾道ミサイル防衛はその相互確証破壊による軍拡の上限を引き上げてしまいます。その結果は相互確証破壊を維持するために相互に軍拡する軍拡スパイラル。膨大な国費がそのために投入され、それで迷惑を被るのは国民。弾道ミサイル防衛は長期的に見ればただの税金の無駄遣いに過ぎません。科学哲学的には先の見えた無駄な競争です。
北朝鮮にはMaRVもSLBMも無理*4ですから、弾道ミサイル防衛は北朝鮮レベルの弾道弾であれば有効性を期待できるかもしれません。
しかし、北朝鮮のような国を相手にするにはあまりにも費用対効果が悪い*5ですし、(核戦力の報復戦力としての有効性を維持するために)中露の核軍拡を招くというおまけもつきます。
だいたい、防御力を強化したいのであれば、弾道ミサイル防衛のような能動防御は陳腐化しやすいので、シェルターのような受動防御の強化の方がまだ有効。
避難時間を得るための早期警戒システムを構築し、今までの多額の税金投入で育った土木技術や建設技術を用いてシェルター兼用の地下施設を作ったり、軍用機の離着陸の荷重に耐える強度をもち非常時には臨時滑走路として使える軍事仕様高速道路を作ったりして日本の要塞都市化を進める方がまだまし。強度に余裕を持って作られた建造物は災害にも強いですし。まあ、ましというだけで多額の税金が使われることに変わりはありませんが。
弾道ミサイル防衛を弾道弾の恐怖から逃れるために支持するものは心理戦の敗者、弾道ミサイル防衛に対する対抗手段の容易さを知らずに丸め込まれているものは情報戦の敗者といっていいでしょう。

*1:誘導精度が低かった時代は核弾頭を核ミサイルで迎撃なんてことも考えられました

*2:開発する必要があれば、おそらく日本にも可能

*3:弾道弾の発射をロケット噴射炎の赤外線で探知する人工衛星

*4:船からなら打ち上げできるかもしれませんが

*5:費用が安ければ一部の人の安心を買うために導入するのもいいかもしれませんが