「装輪装甲車至上主義」の終わり

自衛隊が装軌装甲車の調達数を減らす一方で装輪装甲車の開発と調達を進めるのは、国防より海外派遣を念頭に置いてのことと思うのです。
イラクでのストライカー旅団戦闘団の活躍と、それに伴うストライカー旅団戦闘団の増設に見られるような、治安維持任務における装輪装甲車の能力の高さに目が眩んでいるのではないかと。
RPGによる攻撃を防ぎきれないような防御力の低さを差し引いても、装輪装甲車の治安維持任務における作戦能力は高いわけで、だからこそ米軍もストライカー旅団戦闘団の増設に熱心なわけですし。
しかしながら、そのような能力特性に基づいた装輪装甲車至上主義は数年後には滅びているかもしれません。
理由は次世代の装軌装甲車であるところのMCS*1が従来の装軌装甲車の欠点*2をかなり克服しているからです。
MCSはディーゼルエンジンで発電した電力をバッテリーに蓄え、その電力で電気モーターを駆動し、ゴム製履帯で高速移動する(従来の装軌装甲車と比べれば)軽量(二十数トン)なハイブリッド車両。エンジンを切りバッテリーだけで駆動すればゴム製履帯もあって静かに移動することが可能。ディーゼルハイブリッドによる燃費の良さ、時速90キロで走行できる高速性、軽量ゆえ従来の装軌装甲車に比べて移動できる地形が多いこと*3など、装軌装甲車の装輪装甲車に対する欠点とされていた特徴のかなりを克服しています。
ハイブリッドによるモーター駆動を採用するならば、多輪駆動装輪車両より装軌車両の方がモーター搭載数を少なくできるというメリットもあり、こうなると整備性に関しても装軌車両の方が上。
装輪車両の装軌車両に対するメリットは失われる一方で、踏破性の低さといった装輪車両の欠点はそのままなわけで、ある種の「装輪装甲車至上主義」の主張の根拠は失われるわけです。
MCSの気になるところといえば、ゴム製履帯の耐弾性能や軽量ゆえの装甲防御に対する不安がありますが、それにしても装輪装甲車に対して劣るものではありませんし。
それに、MCSのような軽量な装軌装甲車の装甲防御に対する不安は杞憂かもしれません。小型化による表面積の縮小を考えれば、例えば大きさを7割に縮小すれば単純計算では同程度の装甲のまま装甲重量を半分程度にできるわけで、軽量であることがそのまま防御力の低下を意味するわけではありません。装甲技術の進歩もあるわけで装甲重量あたりの防御力の向上も見込めますしね。主砲発射時の反動の吸収の方はそういうわけにはいきませんが。
まあ、予測できる未来の技術で装軌車両が装輪車両に対する欠点を克服すれば、現在は装輪車両が適しているとされている分野も装軌車両に置き換えられるのではという話。

*1:米軍の次世代装甲戦闘車両

*2:金属製履帯の騒音、燃費の悪さや航続距離の短さ、低速ぶり

*3:実際、重さが60トンもあるM1はユーゴスラビア紛争では自重ゆえに渡れない橋のために移動に支障をきたしました。重量の大きい車両は、そういう場合、工兵による架橋を待たねばなりません