弾道ミサイル防衛を題材に頭の体操

弾道ミサイル防衛でSM-3の迎撃率が50%とかどうとかに関して。
仮にこの数値が正しいとし、それがSM-3一発あたりの迎撃率を意味するとして、それは撃たれた弾道弾の半分を迎撃できるということを意味するわけではありません。SM-3の配備数の半分くらいなら迎撃できるかもしれないということを意味します。
例えば、SM-3を百発配備していれば五〇発くらいの弾道弾を迎撃できるかもしれないということです。もちろん、これは弾道弾一発当たりに一発のSM-3を撃った場合の話。通常、この手の迎撃ミサイルは確実な撃墜もしくは撃破を期して複数発射されます。
では、弾道弾一発当たりに複数のSM-3を撃った場合にどれくらい迎撃できるかを計算してみましょう。

弾道弾一発当たりに二発のSM-3を撃った場合

SM-3の迎撃率が50%で、それを二発撃った場合の迎撃率は1-0.5^2=0.75。つまり75%。
SM-3の配備数が百発であれば迎撃できる弾道弾の期待値は100/2*0.75=37.5。端数を四捨五入すれば38発です。

弾道弾一発当たりに三発のSM-3を撃った場合

SM-3の迎撃率が50%で、それを三発撃った場合の迎撃率は1-0.5^3=0.875。つまり87.5%。
SM-3の配備数が百発であれば迎撃できる弾道弾の期待値は100/3*0.875=29.166…。端数を四捨五入すれば29発です。

弾道弾一発当たりに四発のSM-3を撃った場合

SM-3の迎撃率が50%で、それを三発撃った場合の迎撃率は1-0.5^4=0.9375。つまり93.75%。
SM-3の配備数が百発であれば迎撃できる弾道弾の期待値は100/4*0.9375=23.4375。端数を四捨五入すれば23発です。
このように一発当たりに多数を発射すればするほど迎撃率は上がりますが、配備数で迎撃できる弾道弾の期待値は下がります
これらの計算は相手が一発ずつ順番に撃ってきた場合の話のわけで、相手が同時発射した場合、発射された弾道弾一発当たりに充分なデータ処理能力を割けなければさらに迎撃の期待値は下がることになります。ついでに言えば、攻撃側にしてみれば配備数からどれくらい迎撃されるか予測できるわけで、仮にいくらか迎撃されるにしても、それだけ余分に撃てば事足りるということになります。

話にならない費用対効果

湾岸戦争ではイラク軍に発射されたスカッドの内、レーダー探知することができた47発に向け158発のPAC2が発射されました。スカッド一発当たりに約3.4発のPAC2が発射されたわけです。スカッド一発当たりの価格は2000万円、PAC2一発当たりの価格は1億4000万円。スカッド2000万円分に対してPAC2を4億7600万円分使用。価格交換比では1:23.8。(数値は「〈図説〉湾岸戦争」による)
これでも戦争における費用交換では話にならない数値だとは思いますが、SM-3は弾頭を撃破するための弾頭を打ち上げるシステムなわけで、打ち上げるロケットだけでもPAC2より遥かに価格が高い三段式ロケット。ロケットだけでも民間なら一発当たり数十億するくらいの代物で、さらに話にならなくなるわけです。
単純で安価な単段式ロケットに高度で高価な多段式ロケットで対抗する虚しさ。
トンデモと騙す人と騙されやすい人 - 模型とかキャラ弁とか歴史とかでも紹介しましたが、攻撃側は迎撃システムより遥かに安価な既存のシステムを拡充するだけで、弾道ミサイル防衛に対抗できますし、これで配備数における競争を行えば迎撃システムを配備する側の方が圧倒的に不利です。仮に経済力が尽きるまで軍拡競争を行うのであれば、経済力に数十倍を越える差が無い限り迎撃システム配備側の方が先に経済破綻することになります。
迎撃システムの迎撃率にしても攻撃側がなんら対策を取らなければの話なわけで、弾道ミサイル防衛は破れ傘 - 模型とかキャラ弁とか歴史とかでも紹介しましたが、攻撃側も色々と対策できるわけです。
弾道ミサイル防衛は科学哲学的に攻撃側が圧倒的に有利という結論はSDIの時代にとうに出ていたわけで、今の時代にこのようなブードゥーサイエンスが持ち出されること自体、非常に馬鹿げたことと思います。