軍拡反対というかマッチョうざい

http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20070119/eve_____kok_____000.shtml
メッセージ

同誌によると、弾道ミサイルは今月十一日午後五時二十八分(米東部時間)ごろ、中国四川省の西昌宇宙センター、またはその付近から発射され、地上五百三十マイル(約八百五十キロ)地点の軌道にあった気象衛星を破壊したとみられる。この衛星は一九九九年に打ち上げられたものという。CNNテレビは、今回の実験前、中国が計三回の失敗を繰り返していたと伝えた。
米空軍のミサイル監視衛星は、弾道ミサイルの発射を感知し、破壊に前後して気象衛星の動きも監視していたもようだ。同誌の情報源は、衛星の軌道が乱れ、破片が散らばる様子を米空軍のレーダーが観測したと証言している。詳細は二十二日発売の同誌で伝える。
同誌は、実験について「中国の軍事力が大きな進展を遂げたことを意味する」と指摘。今回の実験により、米国やロシア、イスラエル、欧州諸国などが運用している映像偵察衛星の監視活動に対して、中国軍が脅威となりうることが実証されたと分析している。

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070119it03.htm
メッセージ

同誌によると、ミサイルは米東部時間の今月11日夕方、四川省西昌市にある宇宙センター付近から発射された。搭載された弾頭は、標的に体当たりして衝撃を与える「運動エネルギー撃破飛しょう体」で、高度約850キロにあった中国の古い気象衛星に命中、破壊したとみられる。発生した多数の破片は今後、長年にわたって軌道上を漂い、他の衛星を傷つける恐れがある。
実験の成功が事実ならば、中国が米国の偵察衛星などを攻撃する技術力を示したことになる。中国は、米国の偵察衛星に対して地上からレーザーを照射する実験も、過去に複数回行っていたことが昨秋、軍事専門紙で報じられていた。

http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200701191525

技術的には特別なことは無し。難度としては弾道ミサイル防衛より遥かに容易。
この手の技術は、
1.レーダー等の観測手段による標的の捕捉
2.観測手段からのデータで軌道要素を計算
3.軌道要素から標的の未来位置を予測
4.標的の未来位置に向けて迎撃体を発射
5.迎撃体を直撃させる等の物理エネルギーで標的を破壊
といった過程から成り立っています。
弾道ミサイル迎撃は何時撃ってくるか分からない標的を発見し、限られた時間で迎撃しなければなりません。対して中国が実施した衛星破壊は在ることが分かっている標的に対してたっぷり時間をかけて観測と計算をした上で迎撃すればいいわけです。技術的難度は後者の方が遥かに容易なのは明らか。
目新しいところは、これが事実なら中国のロケット技術は低軌道において予定通りの時間に予定通りの位置に到達できる精度を実現する域に達しているといったところぐらい。(米露にしてみれば二昔は前の技術レベル)
問題は、これで今まで散々SF等で予測されてきた悪夢が現実のものになるかもしれないということ。
例えば、GPS衛星の破壊による精密誘導兵器の無力化とか、破壊された衛星の破片による宇宙への道の切断とか。破壊された衛星は大量の宇宙のゴミ(スペースデブリ)となり地球周辺を覆い、宇宙に上がろうとするものに高い相対速度で衝突して破壊する弾丸になるかもしれないわけですから。
こういう悪夢が実現すると、軍事的には兵器体系が衛星測距による精密誘導等の宇宙技術に依存する度合いが高い国ほど失うものが大きくなります。アメリカは失うものが大きく中国は失うものが小さく、相対的に中国はアメリカとの差を縮めることができます。
衛星破壊ミサイルは中国にとって弾道ミサイル防衛より遥かに低い技術的難度で遥かに大きい効果をもたらすことができる兵器というわけです。

個人的感想というか散漫な悪態

事実であれば対抗策を含め軍拡競争にさらなる資金が使われるようになることは必至でうんざりですね。
不毛な競争に使う金があるなら、まず貧困に苦しむ国民を救え。中国に限らず、米露もその他の国も。
どうせ軍拡競争の結果の財政赤字の負担に耐えかねるようになったら、条約結んで関連兵器配備禁止と相互軍縮するんだろうし、不毛な競争と意地の張り合いに国民を巻き込むな。うざい。
この手の軍拡競争の何が嫌かといえば、力で相手を屈服できるというようなマッチョな臭いがプンプンするところ。力で相手を屈服できるとは限らないというのに。というか普通に頭があれば力に対抗する力が生まれるだけということが分かりそうなものなのに。そういうマッチョな臭いに比べたら、不快さでは軍需産業ポジショントークの方がまだまし。
自国の軍拡とその軍拡の結果の強い国を待望する人々は国籍を問わず暑苦しくて鬱陶しく感じます。
力で他者を威圧することに無頓着な単純な力の信奉者。それでいて他者からの威圧には極度に敏感。軍事力に己を仮託して自己陶酔か。おめでてーな。でも、本人は(頭脳的な意味で)スマートなつもり。ば〜〜〜〜っかじゃねえの?!byハルパゴス。
宇宙環境は大国の私有財産ではなく人類全体*1の共有財産。軍事力を信奉するマッチョどもめ、宇宙を汚すな。とかなんとか。
マッチョな熱血漫画はギャグとして読めるのに、現実の(肉体ではなく精神が)マッチョな人々はとてつもなく不快に感じる不思議。

追記

この報道に関連して嫌中な人達が条件反射で大喜びしているようなので補足。
中国は愚かなのではなく実利的に行動しているだけでしょう。
GPS衛星や偵察衛星の破壊と大量のデブリによる宇宙環境使用不能*2は、仮に米中で戦争になった場合、中国に利します。宇宙技術への依存度の関係でアメリカの方が遥かに失うものが大きいですから。
例えば、偵察衛星により作成された地図とGPSによる位置測定に依存する精密誘導兵器は宇宙環境使用不能によりその能力を失うわけで、このような宇宙技術に依存するハイテク兵器は宇宙環境使用不能によりその圧倒的戦闘能力を失うわけです。こうなれば中国にしてみればアメリカとの技術的な軍事力格差を縮めることができるわけで相対的に中国に利することになります。*3
米中が実際に戦争することは無いと思いますが、この手の技術を所持していることを表明することは牽制になりますし、アメリカは中国に対して外交を有利に進めるために軍事的圧力をかけるというようなこともやり難くなります。
また、これを契機にこの種の宇宙空間の軍事利用を制限するような条約が締結されるようなことになっても、それは相対的に中国に利することになります。*4
どちらにせよ、中国にもデメリットがありますが軍事的先進国の方がデメリットが大きい結果になるわけで、肉を斬らせて骨を断つというかなんというか。
中国は先のことを考えていないのではなく、先のことを考えた上で宇宙技術における軍事的格差という現実に対して実利的な対応をしただけということでしょう。
何にせよ傍迷惑な話ではあります。

*1:「人類全体」でも人間中心で傲慢な言い方だと思いますが

*2:デブリの衛星やデブリに対する衝突によるデブリの連鎖発生=ケスラーシンドロームの結果、低軌道が使用不能になるため

*3:影響を受けるのは宇宙技術に依存するハイテク兵器で、宇宙技術に依存しないハイテク兵器は影響を受けません。例えば光学誘導とか慣性誘導とか。

*4:例えば、弾道ミサイル防衛もSM-3のようなミッドコース段階での迎撃は技術的には衛星破壊ミサイルと同種なわけです。