第二次世界大戦当時、アメリカとイギリスもまた科学力の優れた国

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の「ドイツの科学力は世界一ィィィィィ!」byシュトロハイムな反応を見た際の違和感から書きます。
Ho229がステルス性能を持ちえただろうというのはよく言われることです。その無尾翼全翼機という機体形状によるレーダー反射断面積(RCS)の低さから。
ただ、その機体形状はホルテン兄弟が全翼機の飛行性能の利点を追求した結果で、ステルス性はどちらかというと副次効果というものと思います。
人類がレーダー反射を計算してステルス機を設計できるようになるためには、理論面では後年のソ連の電波反射に関する論文の登場をまたねばなりませんし、技術面ではアメリカでの電波反射を計算するソフトウェアと、それを処理できる計算機の登場をまたねばなりませんでした。
確かに、炭素の電波吸収性を利用した表面処理を行えば、全翼型による低RCSの効果を含め、当時のレーダー警戒網では捕捉できない程度のステルス性をもちえたかもしれませんが、全翼機自体はもっと古くからある概念で、それをドイツの科学力の高さの証のように捉えるのには違和感があるんですね。
こんなものをドイツの科学力の証のように捉えるのは違うだろ、と。ドイツの科学力の高さを感じさせるものはもっと他にもあるだろ、と。
パルスジェット飛行爆弾V-1、ロケット兵器V-2、誘導爆弾Hs293、ジェット戦闘機Me262、ブロム・ウント・フォスの発想が自由すぎる異形な計画機たち、etc、etc。石炭液化による合成石油生産も重要、云々。
ジェットエンジン技術は英米も持ちえていたとはいえ、ドイツがロケット技術や合成石油技術などいくつかの技術で英米の先を行っていたのは紛れもない事実。
とはいえ、英米もまたいくつかの技術においてドイツの先を行っていたのも事実。
電波技術、レシプロエンジン技術、大量生産技術とか。
イギリスによる高周波マグネトロンの実用化によるレーダー性能のドイツに対する圧倒的優位、アメリカによる近接信管と電探射撃の開発に見られる電波技術。
航空機の高高度性能に大きな差をもたらす過給器技術や大出力エンジンの開発に見られるレシプロエンジン技術。
B-17やB-24といった四発重爆撃機を万単位で生産するような大量生産技術。資源や労力だけではあのような大量生産はできません。
石油精製技術による高オクタン燃料や高品質オイルも地味ながら兵器性能に差をもたらす重要な技術だったりしますし、原爆の実用化とかも考えればアメリカとイギリスもまたドイツに劣らぬ科学技術大国だったというものです。
ああいう反応を見ると、第二次世界大戦当時のドイツの科学力がオカルト的に誇張されているように見えて、もにょもにょしてしまいます。
英米の物量に負けたが技術では負けていなかった」的な負け惜しみの声が聞こえるような気がするのももにょもにょする理由。零戦神話や戦艦大和神話を聞いてもにょもにょするようなもの。
過給器技術や建艦技術などドイツが英米に比べて色々と遅れていた面もあることや、その科学力が誇張されすぎ(英米はこんな強大な敵を倒したんだぞ的な意味で)な面もあることなどについて色々と知ってしまった今ではそういう話に燃えられなくなってしまった私がいます。

その他のもにょるドイツ兵器の例

ハイブリッド駆動戦車

ポルシェティーガーとかマウスとか、現代ではエコカーで御馴染みのエンジンで発電してモーターで駆動するハイブリッド式で、ポルシェ博士の性格を含め時代を先取りしすぎたドイツ科学の変態性を示す事例として扱われることがあったりしますが、これに関しては当時のドイツの技術では大重量の戦車を動かすための高出力に耐えられるトランスミッションを作ることが困難だった*1ことによる、それなりに合理的な選択だったりします。逆に言えば、この面で米ソ並みの技術があれば、こういう無理な設計はしなかったでしょう。

前進翼機Ju287

これもX-29やSu-47との比較で時代を先取りしすぎた兵器扱いされがちな気もしますが、前進翼の操縦安定性の不足を補う機械的操縦補助技術や、高い機体構造強度を必要とすることによる重量増加を補う複合材料技術の不在を考えれば、むしろ、戦争末期のドイツの無理してる感を引き立てる兵器のような気がします。

科学力は勝利を保証しない

V-1やV-2はドイツの科学力の高さを示す兵器ですが、攻撃手段として費用対効果に優れた兵器ではありませんでした。これらの兵器は当時のドイツにとって報復手段とはなりえても相手を屈服させる手段にはなりえないわけで、科学力が勝利を保証しないことの一例といえるでしょう。*2
ある種の人々にも分かりやすくドイツが勝てなかった兵器的な理由を述べれば、ドイツには制海権を取れるだけの海洋戦力がありませんでした。
制海権を取れなければ、イギリスに上陸作戦を行うことすら困難ですし、アメリカの支援物資などイギリスに対する海上輸送路を断つこともできません。
海上輸送路に対する攻撃手段としてはUボートによる通商破壊が有名ですが、これにしても英米の対潜技術の進歩とともに効果が低下。
こういうことからドイツにイギリスを屈服させることができないことは明らかで、これだけでもドイツの戦争が勝てない戦争であったことは変えられない結果というものです。
こうすれば勝てたのではという仮想戦記的想定も多数なされていますが、戦史検証の結果、否定されています。その良書としては「ヒトラーが勝利する世界」が挙げられます。
ドイツは負けるべくして負けたのです。

ヒトラーが勝利する世界―歴史家たちが検証する第二次大戦・60の“IF” (WW selection)

*1:それを示す一例としてパンター戦車のトランスミッション初期不良が挙げられます。

*2:ベトナム戦争もその一例というものかもしれません。