朝日新聞の吉田証言報道取り消しで国際世論は変りうるか?

このタイトルの問いに答えるなら、おそらく変わりえないと答えるしかありません。
なぜなら諸外国、少なくともTHE FACTSに対して非難決議を出したような国々*1は狭義の強制連行を問題にしているのではなく、日本軍性奴隷制における苦難を人権問題として見ているからです。
そのことは以下に示すようなマイケル・グリーン氏の発言からも明らかでしょう。

ブッシュ政権のときに国家安全保障会議上級アジア部長を務めたマイケル・グリーンは、「永田町の政治家達は、次の事を忘れている。<慰安婦>とされた女性達が、強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もその点に関心がない。問題は、慰安婦たちが悲惨な目に遭ったと言うことだ」(『朝日新聞』2007.3.10)と語っています。

0-1 強制連行が問題の本質なの? | Fight for Justice 日本軍「慰安婦」―忘却への抵抗・未来の責任

この発言の背景には、2007年1月に米下院で「従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議」の案が提出されたことに対して問われた安倍首相が「言わば狭義の意味においての強制性について言えば、これはそれを裏付ける証言はなかった」「今正にアメリカでそういう決議が話題になっているわけでございますが、そこにはやはり事実誤認があるというのが私どもの立場でございます」「この決議案は客観的な事実に基づいていません」(2007年3月5日 参議院予算委員会 3号)というように答弁したことや「慰安婦問題と南京事件の真実を検証する会」の発足などに見られる日本の政治家の言動に対する反発があります。
当時から国際社会は強制連行ではなく日本軍慰安婦が性奴隷状態にされていたことを問題視していたのに、日本側がそのことに無理解だったのです。
そして、そのことは安倍首相が慰安婦問題でブッシュ大統領に謝罪(2007.4.28)したことや、THE FACTSの意見広告(2007.6.14)が日本軍慰安婦に関する各国の非難決議を招いたことを経ても変わらなかったのです。むしろ、その無理解は日本社会全般に蔓延したと言っていいでしょう。
朝日新聞の吉田証言報道取り消しをもって強制連行を否定できると考え、そうすることで国際社会における汚名を雪げると認識しているかのような人々の言動がそのことを示しています。


今の日本社会の反応を見ると理解してもらえなくても仕方がないと思いますが、これは朝日擁護ではなく、慰安婦問題において朝日新聞の影響力を誇大視しても意味は無いという話です。
朝日の慰安婦特集記事に対する意見を述べれば、後知恵ですが、あれは出すなら遅くても2007年3月半ばには、せめて2014年2月の河野談話検証検討後数週間以内には出すべきものだったと思います。日本側の言動に対する諸外国の反応と組み合わせれば現状に対する世論の認識を促すことになったでしょうし、日本側の言動により引き起こされた米国側の慰安婦問題への反発を見れば「保守」にも説得的に伝わったのではと思うからです。日本の「保守」の実態を考えると希望的観測が過ぎるかもしれませんが。
慰安婦問題は朝日の捏造!」説はApemanさんが以前より言及していることであり、その主要エントリをリストにまとめられていますので、ここにそのURLを紹介します。
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