零戦塗色飴色論争もこれで終わりになるのだろうか

歴史群像2018年2月号に零戦の塗装研究の記事が載っていました。
以下はその記事(P6-7)からの引用です。

「飴色」の謎

それでは、盛んに論じられた中に登場した「灰緑色」や「飴色」とは何だったのだろうか。
実は、中村さんが所蔵するものや、海外に現存する零戦の実機部材を見る限り、それがおそらく「飴色」と呼ばれたものだろうと思われる褐色がかった色調は簡単に見つけることができた。同時に同じ部品の上に明らかに無彩色に近い灰色を呈した部分も見つけることもできた(図?)。これは本来灰色だった上に褐色がかった塗料が塗り重ねられているからなのだろうか。そうした観点で現存する実物を多数ながめ、わかったのは、灰色の上には何かを塗り重ねられてなどいない、ということだった。様々な個所で灰色の塗膜そのもののある部分が変色して褐色に変わっていることが見て取れた。「灰色自体が変色する」。これがすなわち『空技報0266』がいう「現用零式艦戦用塗色J3(灰色)のわずか飴色がかりたるもの」の意味なのだった。
現存する零戦の実機部材を調べるにあたっては、あらかじめ機体製造番号を体系的に整理して臨んでおり、三菱製、中島製という製造会社ごとの違いが発見できないことも明らかだった。しかしながら、同一の機体の上で、軽金属の部材に塗られている「J3灰色」は変色が著しく、羽布部分はそれほど変色が見られないという傾向は存在しているようだった。
海軍では航空機用の軽金属用塗料として「ベンジルセルロース塗料」を使い、羽布塗料には「アセチルセルロース塗料」を使っていた。ベンジルセルロースもアセチルセルロースも、植物から得られる繊維素(セルロース)を加工した合成樹脂であり、これを有機溶剤に溶かし、顔料を加えて塗料を作っていた。溶剤が揮発したあとに、顔料が混ざったベンジルセルロースやアセチルセルロースが塗膜として残る。このうちのベンジルセルロースに特に黄変する傾向があったのだった(図4)。

記事の他の部分もまとめて結論を述べれば、零戦の機体塗色は亜鉛華の白色とカーボンブラックの黒色を混ぜ合わせた灰色であり、飴色というのは塗料が黄変しただけというもの。
飴色と言われるものは塗料が黄変しただけではということは、随分前から言われていたことですが、このように研究成果として発表されたことは有意義だと思います。
また、この記事は零戦の塗色であるJ3自体が灰白色か灰緑色かについても灰白色(灰色)であると結論づけています。
詳細は当該記事を参照してもらうとして、「J3は灰緑色」説のもとになっていると思われる海軍文書の「飛行機機体工作標準」がミスタイプしており、本来は灰白がJ3、灰緑がM2*1ということです。
零戦の塗色については「三菱製が灰白で、中島製が灰緑」という説があり、これが実際の残存機の外板の色調から否定的に見られるようになってからも久しいですが、零戦の塗色は三菱製も中島製も同じJ3灰色で確定のようですね。
模型用塗料としてはガイアノーツが発売している零戦用塗料は灰緑色説に基づいたものですが、この考証に基づけば用途は限定されてしまいそうです。
これで零戦の模型の塗装に関する悩みは解決しそう。機体色は迷わず灰白色(またはそれが幾分黄変した色)で。
証言等との齟齬についても、こういう明るめの無彩色は朝焼けの光のもとではマスタード色に見えたり強い陽光のもとでは青畳色に見えたりしても不思議ではないと思います。
真っ黒か青みがかった黒かの悩みどころのカウリング色も当該記事に引かれた成分配合表の「黒色塗料」を見ると、顔料はカーボンブラック0.4kgと群青0.1kgだったりするので、青みがかった黒で間違いなさそう。
零戦の塗色に関しては諸説が乱立し、そうなる経緯もあったりしたわけですが、この「白と黒を混ぜ合わせただけの灰色」説が覆ることはないのではないかと思います。


歴史群像 2018年 02 月号 [雑誌]

*1:十二試艦戦等はこの色で塗られており、そういう意味では灰緑色で塗装された零戦はあったことになる。