論理的に明快に

カマヤンさんの記事で、人数と確率、殺す人数と殺される人数における彼我の差といった、内容において納得できない部分があるので指摘します。

前提条件

戦争は二つ以上の集団が軍事力で問題解決を図った場合に発生するわけでバトルロイヤルではありません。
以下に例を挙げて納得できない根拠を解説します。
数値は計算しやすいように適当に決めただけで深い意味はありません。
殺す人数と殺される人数の対比を明確にするために、餓死や病死や事故死や誤射といった、その他の死因は除きます。

100人の集団Aと100人の集団Bが戦争したとします。AとBの戦力交換比率は1:5。戦争の結果、Aでは10人死に、Bでは50人死にました。

この結果を人数と確率で評価しましょう。

人数

Aが殺す人数は50人で、殺される人数は10人で、殺す人数より殺される人数のほうが少ない。
Bが殺す人数は10人で、殺される人数は50人で、殺す人数より殺される人数のほうが多い。
戦争全体では殺す人数は60人で、殺される人数は60人で殺す人数と殺される人数は同じ。当たり前のことです。戦争で60人死んだという結果は変わらないのですから。
戦争全体での殺す人数と殺される人数は同じ。でないと帳尻が合いません。
つまり、カマヤンさんの10/26の「戦場では殺す人数より、殺される人数のほうが多い」は誤りです。

確率

Aの個人が殺す確率は100人で50人殺していることから50%以下。Aの個人が殺される確率は100人中10人殺されていることから10%。
Bの個人が殺す確率は100人で10人殺していることから10%以下。Bの個人が殺される確率は100人中50人殺されていることから50%。
戦争全体で個人が殺す確率は200人で60人殺しているから30%以下。戦争全体で個人が殺される確率は200人中60人殺されていることから30%。
殺す確率に「以下」がつき、殺される確率にはつかないのは、個人が殺される回数が一回までなのに対し、個人が殺す回数は何回にもなりうるから。
戦争全体では常に「殺される確率≧殺す確率」
つまり、カマヤンさんの10/27の「完全に拮抗した時に1:1、それ以外の全ての場合において、「殺される」可能性は「殺す」可能性を上回る」は誤りです。
戦力交換比率が1:1の場合でも戦争全体では殺される確率は殺す確率以上です。

論理的に厳密であるということ

以上のように、戦争全体では「殺す人数と殺される人数は同じ」であり、常に「殺される確率≧殺す確率」です。
別にカマヤンさんを論破したいわけではありません。言論は論理的に厳密であるべきと思うゆえ指摘しただけのことです。
ただ、これはお互いに数学的に考えていても戦争に対する認識の違いから見解が分かれているだけの不毛な指摘かもしれません。
誤解なのかもしれませんが「「殺す人」と「殺される人」の比率は、常に「殺される」人間のほうが多いのだ」というのも、私にしてみれば誤りです。
1人で5人を殺す場合もあれば、3人で1人を殺す場合もあります。戦争は複数と複数による共同殺人です。少数を多数で共同して殺す場合もあります。その場合、「殺す人」と「殺される人」では「殺す人」のほうが多くなります。
私にしてみればカマヤンさんの記事は算数になっていません。

力を持ちえない言葉

仮にカマヤンさんの「戦場では殺す人数より、殺される人数のほうが多い」という「算数における事実の指摘」が真として、それは戦争忌避につながる言葉でしょうか。
ベトナム戦争におけるベトナム人にとって、それは圧倒的に真実でしたが、彼らは戦いました。
その一方、ブッシュらアメリカのチキンホークどもは殺される確率が低くても自らは戦場に行こうとはしませんでした。
目的のために犠牲を払う覚悟がある人は如何に戦闘での死亡率が高くても戦場に向かうでしょう。
「戦場では殺す人数より、殺される人数のほうが多い」という主張は戦場に行かない選択権もある臆病者にしか通じない幼稚な脅しです。それはたとえ劣勢でも知恵と勇気を振り絞って戦う人々の覚悟を侮辱する言葉です。それでは戦争忌避の言葉とはなりえません。
「戦争の話になると、みな、『殺す』ことばかり考えるものだが、考えが浅すぎる。」も、私にしてみれば誤りです。分別があれば「自らが戦争で死ぬ可能性」を真っ先に考えます。普通に数学的思考ができるのであれば「一出撃当たりの死亡率が5%でも20回も出撃すれば、ほぼ確実に死ぬだろう」(1-(0.95)^20)といったように。
論じるべきは、殺す人数と殺される人数といった損得勘定のもとでの「戦争に行く/行かない」ではなく、戦争で人が死ぬのも殺すのも殺されるのもごめんだという考えのもとでの「戦争は悲惨な行為→戦争はいけない」だと思うのです。
そうでなければ普遍的に力を持つ反戦の言葉にはなりえないでしょうから。