延長線の向こうにあるもの


北朝鮮弾道弾打ち上げ騒動に関する意見で明らかに間違いなものがあるので、それに対する指摘。
テポドン2は成功していたらアラスカに落ちていたかもしれない」というのは誤りです。
今回の画像は北朝鮮の発射した弾道弾の落下地点を目安に地球儀に延長線(赤い線で描かれた四角の中の灰色の線。かなり雑ですが)を引いたものです。
日本海(ロシア近海)側から稚内付近を抜け太平洋上をアメリカ西海岸方向に向かうコースです。
テポドン2の性能がアラスカに届くかどうかのレベルの場合、テポソン2は成功したとしても太平洋に落下していたことでしょう。
また、この画像から北朝鮮が陸地に落ちる可能性が一番低いコースで打ち上げたことが分かります。これは被害がでないように海に落とすためと解釈するのが妥当で、打ち上げは攻撃目的ではなく示威目的もしくは実験目的だったことを示しています。
スカッドにしろノドンにしろ同様のコースを飛んでいるわけで、これも海(日本海)に落とすためでしょう。飛翔コースからみて日本に落ちることなどありえません。スカッドとノドンの目的は、おそらく北朝鮮が攻撃を受けた場合、韓国及び在日米軍に即座に報復できることを示して抑止力とするためでしょう。これらの弾道弾に関しては発射の兆候が観測されていないわけで、サイロ内などで隠れて燃料注入が可能ということ。つまり、もし北朝鮮が攻撃を受ければそれらの弾道弾で韓国及び在日米軍に報復攻撃を行うというメッセージでしょう。ここで重要なことは、実際に弾道弾で即応可能であることではなく、即応可能かもしれないと相手に思わせること。
万が一にも日本に落ちないように選択された飛翔コースからは、北朝鮮が例え失敗が原因でも日米に被害を与えることで報復攻撃を招くことを非常に恐れていることが分かります。(人工衛星打ち上げが目的なら日本上空を通過する東から南東方向の方が有利)北朝鮮の通常戦力の殆どは時代遅れであり戦力的には非常に弱小であることからこれは当然のことです。
打ち上げ日の選択(アメリカ独立記念日とかスペースシャトルの打ち上げとかに合わせて)とかは情報戦や心理戦の問題。
テポドン2に関して打ち上げを中止したくても解体が困難なためそれもできず、海上投棄するような形で打ち上げるしかなかったというのもあると思いますが。(で、燃料注入から時間が経ちすぎていてロケットが腐っていてあの結果かと)*1

追記

落下したのは日本海とはいえロシア近海なのに、日本海日本海とまるで日本が狙われたかのような報道をするマスコミと、コースから見て日本に落ちる可能性なんかないのに「日本に落ちていたかもしれない」と発言するコメンテーターが気持ち悪い。
アメリカの独立記念日に打ち上げたことを見ればアメリカの関心を引くためのメッセージであることは明らかでしょうに。それも今現在アメリカに北朝鮮を攻撃する余裕が無いことを見越した上で。
この件で日本にできることは少ないことを分かっている上で、アメリカとの交渉への影響力を期待して打ち上げたと見る方が自然でしょう。それも相当行き詰まった上での。
今の北朝鮮の状況を鑑みるに北朝鮮による弾道弾打ち上げは消える前の蝋燭の最後の輝きのような気がします。

追記2(2006/07/09)

テポドン2ですが、GlobalSecurityに実際は発射直後に爆発してろくに飛ばなかったという記事があります。
http://www.globalsecurity.org/wmd/library/news/dprk/2006/060706-nkir2625.htm
また実際は衛星打ち上げコースとして妥当なハワイ方面に打ち上げたのではという話もあります。
参考までにGlobalSecurityのテポドン2飛行経路画像のURLを貼っておきます。
http://www.globalsecurity.org/wmd/world/dprk/td-2-trajectory.htm
私の飛行経路予想に関しては「初期のニュースで報道された落下位置が正しければ、テポドン2はアラスカに落ちるわけがない」程度に受け取っていただければ幸いです。

追記3(2006/09/09)

http://d.hatena.ne.jp/s_kotake/20060905/p3

一体どこまで北にそれたらハワイ沖なのかと。

これは地球の自転によるコリオリ力(回転体に働く見かけの力)の影響で北半球では進路が右に曲がるからです。
北朝鮮から真東に打ち上げた場合、東方向から南東方向に徐々に進路が曲がり、だいたい以下の画像のように飛びます。

Taep'o-dong 2 (TD-2) - North Koreaより引用。
衛星打ち上げで地球の自転の力を活かすために真東に打ち上げた際の軌道もこうなります。
初期の稚内付近に落ちたかのような報道が正しければハワイ沖に飛ぶことはありえませんが、後の東方向に打ち上げようとしていたという報道が正しければハワイ沖方向に飛ぶことはありえます。
現在では初期の報道は誤りでテポドン2はろくに飛ばなかったことと、発射台は東向きだったことが判明していますので、件の報道は無茶なものではありません。

*1:この記事を書いた後、ロケットの腐食に関して、軍事評論家の野木恵一氏が北朝鮮でも技術的に腐食を防げると指摘している記事を読みました。北朝鮮が耐食性素材を揃えられるかには疑問がありますが、ロケットの腐食の進行は問題にならないのかもしれません。