ファルージャで何がおこったか

Rainews24のドキュメンタリーに関する補足説明

2004年11月、米軍はイラクファルージャを「テロリスト掃討」*1のために包囲攻撃しました。攻撃に先駆け米軍はファルージャ市民に避難するように勧告しましたが、「戦闘可能年齢の男子」が街から出ることを阻害したため*2ファルージャには脱出できなかった市民の家族を含め多くの市民が取り残されていました*3。その攻撃における白燐弾の使用を告発するドキュメンタリーが2005年11月にイタリアのテレビ局Rainews24で放送されました。


隠された大虐殺 英語版(注意:残酷な場面が含まれています)
Rai News: le ultime notizie in tempo reale – news, attualità e aggiornamenti
http://www.rainews24.rai.it/ran24/inchiesta/video/fallujah_ING.wmv



上の画像はこのドキュメンタリーの白燐弾による攻撃の模様の一部をアニメGIF化したものです。
teanotwar - mirror/archive (Japanese fonts required): 2005/11/16
よりの又引用です。



上の画像は米軍による攻撃後のファルージャ市街高高度画像。上記アニメGIFの最後のコマです。ファルージャ市街が広範囲にわたって黒く焼き尽くされていることが分かります。広範囲に大量の焼夷兵器による攻撃を行った痕跡です。
このような大規模な焼夷兵器による攻撃では多数の人が中毒死*4、窒息死*5熱死*6することが過去の戦略爆撃*7より知られています。
米軍による攻撃後のファルージャでは多数の外傷の無い死体が目撃されたわけですが、これによりその説明がつきます。



上の画像は白燐弾による攻撃の一場面。上記アニメGIFの途中のコマに説明を書き加えたものです。丸で囲んであるゆっくり降下する大きな火球が照明弾。四角で囲んである多数の火球が煙幕兼焼夷弾。照明弾は長時間周囲を照らし出すために落下傘でゆっくり降下するのに対し、煙幕兼焼夷弾は空中で爆散して広範囲に燃える黄燐の破片をばら撒くのでその区別は容易です。
Rainews24のドキュメンタリーでは照明弾の周囲に幾度も煙幕兼焼夷弾による砲撃が加えられていることが分かります。これは米軍が照明弾を攻撃箇所の目印とし、そこに集中砲撃を加える戦術を用いていたためでしょう。

他の情報に関する補足説明

http://www.doblog.com/weblog/myblog/7844/2037678#2037678

その後、ファルージャの住民達から、白リン弾の使用について聞きました。何人かの女性達は、家に入ろうとして、家中がほこりのような粉だらけであるのを見つけました。アメリカ人は、そのほこりはとても危険なので洗剤できれいにするように、と彼女達に言いました。実際、体に影響が表れました。出血や他のおかしな症状です。

この情報が真の場合、ほこりのような粉は五酸化燐の可能性が高いです。
黄燐が酸化してできる五酸化燐は空気中の水分と反応して燐酸となり、燐酸は周囲の物質と反応して燐酸化合物となるため、温暖湿潤な環境下であれば短い時間でほぼ無害化します。しかし、砂漠気候のような乾燥した気候においては五酸化燐から燐酸への反応がなかなか進まないため五酸化燐が長期残留することになります。
五酸化燐は粘膜や皮膚に対して強い腐食性を示し、接触は化学火傷を引き起こしますので、この情報で語られているようなことがおこるのは不思議ではありません。


teanotwar - mirror/archive (Japanese fonts required): ファルージャでの奇妙な出来事(ジャマイル, 1月18日)

さらに、彼の友人の多くが彼に語ったところでは、米軍は放水タンカー・トラックで道路を一掃していたと言うが、彼自身はその光景を見ていないという。
「兵士たちはすべての家で放水車から放水した」と彼は続ける。「まるで水を使って化学兵器の証拠を隠蔽しようとしているみたいに。だけど、米軍はそれをジュラン地区とかそこの市場とかいったいくつかの地域でやっているだけだ」。

この情報が真の場合、放水は証拠隠滅のためではなく、五酸化燐による米軍兵士への健康被害を防ぐためでしょう。前述したように砂漠気候のような乾燥した気候においては五酸化燐は長期残留します。降り積もった五酸化燐の粉塵は人間の行動により掻き乱され容易に空中に舞い散り、それを浴びたり吸ったりすれば五酸化燐の腐食性で皮膚や粘膜に化学火傷を負うことになります。
米軍としてはそのような健康被害は避けたいでしょうから、取り敢えずは自軍の基本的な活動範囲に限って放水し五酸化燐から燐酸への反応を進めることで被害の軽減を図ったのでしょう。


Baghdad Burning

モスクと一面の死体。同じモスクを、その前日に写した短い映像も見た。散乱する死体の多くは同じだ。だが、生きている人もいた。それが一日後には、生きていた老人は壁にもたれ、目から血が流れ出ていた。まるで血の涙を流して泣いているかのようだった。いったい目から出血させる「通常」兵器があるだろうか。バグダードの遺体安置所には、見たところ、どういう状況で死んだかわからないファルージャ市民の遺体が次々運び込まれているという。

この情報が真の場合、老人の目からの出血は五酸化燐や燐酸といった腐食性物質により眼球の毛細血管が破れたためでしょう。このような目からの出血は腐食性物質による被害の典型的症状の一つです。

teanotwar - mirror/archive (Japanese fonts required): 2005/11/11

BBCの記事見出しが「化学兵器」から「焼夷兵器」にサシカエになった件
…略…
元の見出しは、US 'used chemical arms' in Iraq(米国はイラクで「化学兵器」を使用した)。
それが、US 'uses incendiary arms' in Iraq(米国はイラクで「焼夷兵器」を使用した)となったとのこと。

これはBBC白燐弾について調べた結果、現在主流の解釈の方を採用したということでしょう。圧力に屈したということではないと思います。
もともとファルージャでは状況だけ見れば化学兵器を思わせる被害が出ているわけで、この程度の「誤認」は仕方ないというもの。焼夷兵器でどのような被害が引き起こされるかというのは一般的知識ではないのですから。

誇張や誤認を補正するリテラシー

様々な報道を含め、伝聞情報は伝える人間の立場や知識により誇張や誤認を避けがたいものです。それを補正できるのもリテラシーというもの。誇張や誤認の部分をもって全否定するのは、単に信じたくない情報に対して信じない理由を探しているだけというものです。
ファルージャにおける「通常兵器」によるものとは思えない「奇妙な犠牲者」は現実であり、それが米軍の攻撃の結果であることも現実です。

*1:経緯については高遠菜穂子さんの講演会(7日昼微修正) - 月よお前が悪いからが参考になります。

*2:15歳から45歳までの男性を拘束。月よお前が悪いから月よお前が悪いから

*3:ファルージャは人口およそ30万人の都市であり、その三分の二にあたる人が脱出したとされていますので、概算で10万人。

*4:一酸化炭素中毒等、焼夷兵器と火災により発生した毒性物質による死

*5:黄燐や五酸化燐により引き起こされた肺水腫による呼吸困難による窒息死も含みます。

*6:人間が耐えられない温度による死。石造建造物自体は焼夷兵器により崩れなくとも中は燻し焼き器状態に。

*7:第二次世界大戦におけるハンブルクドレスデン、東京等に対する戦略爆撃においては中毒死や窒息死による死者はときには総死者の半数を上回りました。