戦時アニメに見る焼夷弾の種類と対策

防空訓練に用いられた1942年のアニメ「協力防空戦」の「焼夷弾之巻」は白燐弾ガセビア「黄燐を主剤とした焼夷弾はない」 - 模型とかキャラ弁とか歴史とかで既に紹介した動画ですが、現在はYouTubeから削除されてしまっています。
AmebaVisionの方には残っているので、動画の再紹介も兼ねて一部を文字起こししてみました。

焼夷弾
敵はこの焼夷弾によって木造家屋の多い我が家畜村を一挙に焼き払わんと狙っているのです。
我々はこの焼夷弾によって起こる火災の被害を最も少なくするためにどうして防ぎどうして処理したらよいかを
きっかりと覚えておかなければなりません。



焼夷弾には油脂焼夷弾エレクトロン焼夷弾、黄燐焼夷弾と大体の種類に分類されております。その種類によって処置の方法が違いますので、それを見分けなくてはなりません。



油脂焼夷弾は固形油あるいはベンゾールとパラフィンを混ぜたものが入れてあって、いわゆる油火事を形成するわけです。
その防火法としては第一に周囲の燃えやすいものに水をかけ、同時に濡莚(ぬれむしろ)類あるいは布団等で焼夷弾を覆い、その上に多量の砂・土をかけて火炎を抑え、延焼を防ぐことに努めなければなりません。



次はエレクトロン焼夷弾です。これは弾の周囲をエレクトロンで作ってあって焼夷剤としてテルミットが入っております。

防火法。
この場合も第一番に行うことは水を周囲の燃えやすいものにかけることです。その後に濡莚あるいは布団等をかぶせ、その上に多量の砂・土をかぶせることです。火花が散らなくなったらシャベルで安全な場所へ運び燃え切らせます。



次が黄燐焼夷弾
これは黄燐又は黄燐の二硫化炭素溶液が入れてあって飛び散るこの火の粉によって火災をおこさんとするものであります。
防火法。
水を周囲の燃え易いものに掛けること。
多量の砂・土或いは水を飛び散った火の粉に掛けること。

柱や襖(ふすま)に付いたものは火叩きに水を浸し叩き消します。(字幕は「叩き落して消す」)
黄燐が附着しないように濡れ手袋を用いる事。


焼夷弾の恐ろしさは、これによっておこる火災なのであります。
焼夷弾は一本のマッチと同じように火付け道具の一つに過ぎません。
私達はこの火事のもとを見つけ次第、早く消しとめればよいわけです。
なんといっても防火には水が最も大切であります。
いざという場合、水道の使用が困難になった場合を考えて必ず貯水しておかねばなりません。
本日は焼夷弾について簡単にご説明いたしましたが、防空の第一要件は皆さんの精神一つであります。
もしも事にあたった場合は、徹底的な防火第一主義を深く心得て、まずは火災が起こらぬ先に全力を尽くしてください。こうした防空精神の涵養と平素の訓練とは敵の空襲の目的を完全に駆逐することができるのであります。

http://vision.ameba.jp/watch.do?movie=187736

焼夷弾の主機能は熱エネルギーによる対象の破壊と火災による被害拡大。その破壊力を運動エネルギーにおいて他の兵器と比べることはあまり意味がありません。


油脂焼夷弾は主成分が油脂または油脂と樹脂の混合物(殆どの場合、ゼリー状で付着性が高い)の焼夷剤を爆発燃焼により飛び散らせる焼夷弾
着火力も燃焼力も高いのが特徴。
著名な焼夷弾であるナパーム弾は油脂焼夷弾の一種。


エレクトロン焼夷弾は、現在ではテルミット焼夷弾と呼んだ方が通じが良い金属燃焼系の焼夷弾
金属をも溶かす高温と花火のように火花を飛び散らせるのが特徴。


黄燐焼夷弾は容器内の黄燐または黄燐溶液を火薬の炸裂で着火し飛び散らせる焼夷弾
反応の結果生じる燐酸が耐火膜の役割を果たしてしまうため着火力は低め。
火が消えにくいこと(秒速数十メートルの強風でも火が消えないという)と、燃える黄燐が体にくっつくと取れにくいことが特徴。
黄燐弾・白燐弾・燐酸弾と呼ばれることもあります。


現在では市街地のような人口周密の地域に対する焼夷兵器の使用は1980年ジュネーブでの特定通常兵器使用禁止制限条約,焼夷兵器の使用の禁止又は制限に関する議定書(議定書III)により禁止されています。

時代背景

当時の日本は防空法のもと国民を防空演習・訓練に総動員していました。
隣組制度のもと、演習・訓練への参加は事実上強制であり、不参加者は非国民とみなされました。
空襲に対して避難することは基本的に許されておらず、国民は防空壕に一時待避した後に消火活動に従事することが求められていました。
しかし、そのような消火活動は圧倒的な米軍の飽和爆撃の前には無力で、むしろ犠牲者を増やしただけでした。
隣組での集団行動での防火能力を圧倒する米軍の物量の前には、この動画で語られているような精神論は無意味だったのです。
日本の戦災を語るにおいては、米軍による民間人の居住地に対する無差別爆撃の非道さと共に、そういうことも忘れてはならないのではと思います。