焼夷兵器禁止条約以降の「唯一の選択肢」としての白燐弾

ガザにおいて国連の物資や車両がイスラエル軍白燐弾によるものと思われる攻撃で焼き払われてしまいました。
事実なら、これは使用された白燐弾に十分な着火能力があることの証明というものでしょう。


http://www.mainichi.jp/select/world/news/20090117k0000m030067000c.html
http://www.asahi.com/international/update/0115/TKY200901150241.html
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/090116/mds0901161145003-n1.htm
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200901150022.html
http://news.tbs.co.jp/20090116/newseye/tbs_newseye4039570.html


焼夷兵器の使用は1980年ジュネーブでの焼夷兵器禁止条約で制限されるようになり、各国で焼夷兵器が廃止されました。
焼夷兵器の条約違反な使用は明確に国際法違反を問われるのが現代社会です。
その中で煙幕兼焼夷兵器の白燐弾は煙幕弾として配備され、戦術的な理由などで焼夷兵器を使いたい場合、「代用焼夷兵器」として使われているわけです。
例えば、下記記事のアフガニスタンの「マリファナの森」を焼き払おうとしたカナダ軍のように。

マリファナは熱を素早く吸収してしまうため、焼き払うことが難しいのです。タリバンの奇襲攻撃に備えて常に警戒を怠れない状況です」
白リン弾を使用して焼き払おうとしましたが、失敗でした。ディーゼル油でも試してみましたが、これも失敗。マリファナの木は現在、たくさんの水分を蓄えています。焼き払おうとする我々の作戦は失敗に終わりました」
それでも少しは焼却に成功したという。しかし今度はまた別の問題が発生した。
「一部のマリファナから火の手が上がりました。ですがその風下にいた兵士が体調不調を訴えたのです。このため焼き払い作戦は妥当ではないと判断するに至りました」とヒリア司令官は語る。

http://megalodon.jp/?url=http://www.excite.co.jp/News/odd/00081160789467.html&date=20061015143722

煙幕兼焼夷兵器の白燐弾は条約下でも煙幕弾として部隊配備できることから焼夷兵器を使いたい場合の「唯一の選択肢」となり、そして、報道が事実なら、ガザでも現にそのように使われているということになります。


白燐弾の運動エネルギー的な殺傷力は低いものですが、飛び散る白燐による熱傷が加わるため、合計での殺傷力はそれなりに高くなります。以前の記事で引用したように。

地雷爆弾としての爆風や弾片による殺傷力と黄燐火沫の火傷の加わったものが黄燐焼夷弾の殺傷作用として惹き起されるから面倒である.
20キロ級のものを例にとると,爆風および高熱の爆発ガスによって直接危害をうける範囲は落下点から半径6メートルの程度で,これは20キロ級の地雷爆弾の場合の数分の一にすぎない.けれど,黄燐の飛散火沫による危害半径は約20メートルで,これはまず20キロ地雷弾の爆圧及び弾片の危害半径とほぼ一致する (第9図).ということは,遠方から飛んで来た燐の火沫が着衣に付着しても大した危害にならないともいえる.そのわけは,燐片が空中を飛行しているうちに弾片とはちがい次第に酸化消耗して,直径3センチの塊でも60〜70メートルも飛んで行くうちには殆ど燃えつくしてしまうという.したがって火沫の最大飛散距離が80メートルとか60メートルとかいっても,その辺りでは殆ど威力を発揮できぬと見てよい(第10図).
これに反し黄燐弾の落下点付近ではかなりの火傷を覚悟しなくてはならない.エレクトロン弾はもとより油脂弾の場合よりも火傷者が多いというのは,20キロ弾の例でいうと,炸裂点から半径数メートルの範囲では直接全身火傷をうけ,半径20メートルのところまでは中心に近いほど重く,かなりの火沫をうけて火傷を負うものと心得なくてはならない.この場合,露出した皮膚に火傷をうけるのは当然だが,たとえ衣服をつけていても,溶けた燐とか,黄燐をニ硫化炭素にとかしたものは衣服の生地を透して皮膚に浸透するから,やはり火傷は免れない.

白燐弾はどういう兵器でどのように使われてきたか - 模型とかキャラ弁とか歴史とか

Jane's Ammunition HandbookのDefense & Security Intelligence & Analysis: IHS Jane's | IHSによれば、イスラエル軍が使用している白燐煙幕弾M825A1の白燐重量は5.78kg。これが116個の燐片をばら撒くので、その一つあたりの重量は5780/116≒49.8で約50g。50gの燐片の体積は比重1.82からの単純計算で約27立方センチメートル。つまり、一辺3センチの立方体の燐の塊に相当します。これはかなり大きい燐の塊で、上に再引用した図解科学で例示されている燐片の大きさとほぼ同じです。つまり、低高度で爆発するように撃てば、それなりの殺傷力と焼夷効果を発揮するのに十分な大きさです。
殺傷力、焼夷効果、それに煙幕による活動妨害効果を兼ね備える白燐弾は、運動エネルギー的殺傷力や対物焼夷効果といった一つ一つの能力では劣っても総合力においては有用で、焼夷兵器禁止条約により他の焼夷兵器を使いづらい現代においての条約の「抜け道」として用法を偽って焼夷兵器として用いられているのでしょうね。
例えば、米軍がイラク白燐弾を焼夷兵器として使用したことを認めたように。

追記

本文の記述の修正を行いました。「焼夷効果が付随的な焼夷兵器」といった括弧付き表現他。http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090114#20090114fn1と同じ理由による修正。