被曝労働を理解している人ほど高線量の場所では働かない

被曝労働における線量の上限は年間最大では50mSvでも5年間では100mSv。
被曝労働で長期的に計画的に働こうとする人の手持ちの線量は100/5で年間20mSv。
ゆえに被曝労働を理解している人ほど多少日当が高かろうと高線量の場所での作業は避けることになります。年収のことを考えれば当然のことです。
例えば、日当が仮に5万円であろうと作業日あたり2mSv被曝するような場所では20mSvを使いきっても得られる収入は50万円。このような作業だけでは仮に多重下請けによるピンハネが無くても1年間暮らしていけるような収入は得られません。*1
被曝労働で長期的に計画的に働こうとする人はこのような募集にはあまり応じないでしょう。
ゆえにそのような高線量の場所での作業は多少日当が高かろうと募集に対して必要な人数が集まりにくくなります。
どのような事業であろうと必要な人数を集めたければ必要な人数が集まるだけの報酬を支払うべきで、用意できる報酬で必要な人数が集まらないのであれば事業の方に問題があるというものです。
被曝労働の場合で真っ当に作業員を集めたいのであれば20mSvの被曝労働で必要年収分の収入を最低でも得られるような報酬を約束するべきです。*2
作業日あたり2mSv被曝するような場所での作業は必要年収を仮に500万円とすれば単純計算では日当50万円を支払うべきということ。
このような報酬を支払うことは人件費の上昇をもたらしますが、電力会社は電気料金を値上げしてでもその人件費を賄うのが筋ですし、消費者の方も人件費上昇に伴う電気料金の値上がりを受け入れるべきです。経済的弱者の負担増を抑えるために料金体系が大きな累進性を持つことが前提ですが。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2012072790070304.htmlの記事は

福島第一原発の収束作業で危険手当の未払いなどを申し立てる元作業員の男性は、本紙の取材に、原発の建屋外の作業だと説明されていたことや、被ばくの恐怖と闘いながらの作業だったのに正当な手当が支払われない怒りを語った。

下請け会社も自社の社員が線量を使い切ってしまうと、次の仕事を取りにくい。そこで男性のように臨時の作業員を雇うケースが出てくる。男性は「自分が(被ばく線量の高い作業を短期で担う)高線量要員だったことを後で知った」と話し、「約束した賃金は少なくとも払ってほしい」と訴えた。

というように雇う側が作業に必要な人数を集めるために労働条件を偽って募集したと推測される事例であり、それに対して労働者が正当な報酬を求めている事例。
雇う側が虚偽を必要としたのは提示できる条件が労働者が「そんな条件では働かない」というような条件であったからだろうというもので、このような虚偽の労働条件の提示は資本主義の悪ではなくブラック企業的な悪であり、なされている不公正は資本主義自体のものではないというものです。
そういう被曝労働におけるブラック企業的な悪を示す記事に対して

全国の原発関連労働者の諸君は直ちに結束し「月給1億円貰ってもヨゴレ仕事はお断り」と職場放棄し国家を大混乱に陥れるべき。嫌々ながらでもそこで働く人がいるうちは絶対に原発はなくならない。それが資本主義の掟

はてなブックマーク - 東京新聞:福島第一元作業員「賃金、手当ピンハネ」 労働局に訴え「多重派遣」も:社会(TOKYO Web)

はてなブックマークコメントをしているid:Midas氏の言葉は詐欺か当人の頭の悪さの産物だと思いますし、そのブコメに賛同スターをつけている人々も大概な愚か者だと私は思います。


被曝労働は多重下請けによる中間搾取も問題ですが、この問題に対し電力会社は作業を発注するにあたり作業員一人当たりに支払っている金額を労働者にわかる形で公表しておくべきだと思います。電力会社が作業員一人当たりに支払っている金額と労働者が下請け会社から受け取る金額の差を労働者自身が知ることができるように。

追記

この手の「電力会社は例外的に批判するけど、自分たちの産業は守る」というサヨク的イチャモンの付け方は恥ずかしい。作業員一人あたりの金額を公表しろというなら、全ての産業でそうすればいいではないか。なぜ「電力会社だけ」なのか、もう少し真剣に考えた方がいい。

https://twitter.com/T_akagi/status/229506737638633472

「被曝労働者がピンはねされてる!」という批判のバカバカしさは、ソレに乗っかっている連中の生活が、電力ではない産業におけるピンハネによって成り立っているということ。彼らは「電力会社への特別な罰」としてのピンハネ批判しかしていない。全ての業種を批判に含めない。ずるい。

https://twitter.com/T_akagi/status/229507115193081856

まぁ、震災前の格差問題では「お前たちが悪い」という反発をはね返せなかったので、問題を組み直して「電力産業における格差問題だけを問題視する」という枠組みに変えたのだろう。

https://twitter.com/T_akagi/status/229507420139950080

というような[twitter:@T_akagi]氏の言及にこたえると、電力会社に限らず金額を公表すべきだと思います。
多重下請けにおける搾取の問題は原発に限らない労働全体の問題で、それは可視化されるべきですし、労働者は企業による搾取率を知ることで搾取率の低い企業を選べるべき、あるいは労働条件の改善を主張することができるべきです。
ただ、この問題は電力会社で特に大きいことも昔から知られていたことです。権力側の黙認に加えて

東電が行っていることは偽装請負に該当するわけだが、なぜこのことが問題視されなかったのだろうか。その理由の1つに、行政が摘発できなかったことが挙げられる。関係者に聞いたところ「労働基準監督署(労基署)が現場作業をしているところに入る場合、抜き打ち検査を行うのが当たり前だ」という。労基署の検査は厳しくて、突然やって来て、書類を確認し、労働者を集めて話を聞いたりする。なぜ抜き打ちをするかというと、会社が都合の悪いものを隠してしまうから。
しかし原発の中は危険なので、予告監督せざるを得ない。管理者の指示に従いながら、検査しなければいけないのだ。このように“手入れ”がしにくい職場なので、長年、不正が隠されてきたのだ。

http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1106/14/news007_2.html

というような事情による取締りの困難さゆえに。

*1:多重下請けによるピンハネ率が8割だと実際に労働者の手に入る金額はこの5分の1。

*2:被曝量が低い作業でも作業に見合う日当を支払うのを前提として。