靖国参拝における小泉首相(当時)と安倍首相の差
安倍首相の靖国参拝は小泉首相(当時)のときと違って米国からもあれこれ言われていることについてですが、この二人には明確な差があります。
小泉首相(当時)は非歴史修正主義者として振る舞い*1ブッシュ大統領(当時)との関係も緊密だったのに対し、安倍首相は歴史修正主義者として振る舞い*2オバマ大統領との関係は緊密ではありません。*3
小泉首相(当時)の場合と安倍首相の場合とで靖国参拝に対する米国の反応が異なる理由とは明言できませんが、こういう差は確実にあります。
歴史認識は外交問題になり、外交問題における事実として外国では安倍首相は歴史修正主義者と認識されています。そのことはニュース検索で「abe revisionism」*4で検索すれば明らか。*5そして、欧米における歴史修正主義に対する認識を考えれば欧米の首脳が歴史修正主義者と懇意になることはまずありえないので、安倍首相が歴史修正主義者であることはオバマ大統領と緊密な関係を築くことができないことを意味します。ま、非歴史修正主義者であれば緊密な関係を築けるというわけでもないのですけどね。
「米政権が共和党ではなく民主党だから」?
慰安婦問題で安倍首相(第一次)がブッシュ大統領(当時)に謝罪することになったように共和党も歴史修正主義を容認しません。
靖国はアジア太平洋戦争が日本の侵略戦争であることを否定していてアジア太平洋戦争の戦争責任を負うA級戦犯が祀られている神社。
安倍首相はアジア太平洋戦争が日本の侵略戦争であることを認めたがらず慰安婦否定論に名を連ねているような首相。
いずれもサンフランシスコ平和条約で日本が(アジア太平洋戦争を日本の侵略戦争としている)東京裁判を受諾していることを前提としている戦後世界秩序に対する挑戦でしかありません。
米国からその歴史観を憂慮されている歴史修正主義者首相の歴史修正主義神社への参拝は米政権が共和党とか民主党とか関係なく境界線を越える行為となったと思います。
「A級戦犯は既に名誉回復したのだから戦犯ではない。その言葉は今は使わないし、もはや問題ではない」?
名誉回復したから戦犯ではないという歴史修正主義者の信仰はさておき、ニュース検索で「Class A war criminals」で検索してみてください。A級戦犯という言葉は使われ続けていますし、戦争神社靖国とA級戦犯の関係は今現在も問題です。
「中国はA級戦犯合祀後も首相の参拝に反応していなかったのに中曽根首相(当時)の参拝から反応するようになった」?
私人としての参拝と公式参拝の差。中曽根首相(当時)の1985年の靖国参拝は戦後初めての公式参拝であり、それは境界線を越える行為だったというだけの話。首相の参拝が「私人としてか公人としてか」は「朝日の報道」の前から問題になっていましたし、憲法の政教分離原則から国内的にも問題になることは当然のことです。
「安倍首相の参拝は私人としての参拝」?
「玉串料さえ公費から出さなければ私人としての参拝」というのは国内にしか通じない理屈でしかなく、公用車に乗り公人である内閣総理大臣と記帳しながら私人としての参拝と主張しても、それを諸外国に納得してもらうのはまず無理だろうと私は思います。
「米国は中曽根首相(当時)の靖国参拝には言わなかった」?
当時は冷戦時代で、「反共の盾」として米国にとっての日本の重要性が今よりも高く、反共によるお目こぼしがあった時代。冷戦はとうに終わり、米露中の政治的経済的結びつきが強くなる中、米国にとっての日本の重要性は相対的に下がっています。
状況の変化を認識せずに「この程度の行為なら繰り返しても大丈夫の筈だったのに」と考えたりするのは現実認識能力の問題と思います。
とりあえず、国際社会からの非難・批判が安倍政権の本意でないならば、安倍政権の急務は国際社会からどう認識されているのかを理解し、国際社会に納得してもらえる対応をすることだと思います。米政権はわざわざ安倍首相の言動のどういう部分が評価に値するか声明の中で示してくれていますよ。それに沿う方向で動いてみてはどうですか。「理解を求めていく」という態度は「相手の誤解・無理解が悪い」と言っているのも同然で、相手国は真意を理解してもらうためにより明確な言動を取らざるをえなくなるだけではないでしょうか。特に米国は安倍首相の歴史観を憂慮し千鳥ヶ淵献花などで繰り返しメッセージを送っていただけに、その相手を理解不足のように言うのは神経を逆なでする行為になったりしませんかね。
靖国参拝が外交問題になるのは歴史認識のためで、日本を非難・批判している各国の意図が別々だとしても、その問題の根底にある歴史認識に同意してくれる国なんてそれらの国の中にはありませんよ。安倍政権の自滅だけで済むなら勝手にしろとも思いますが、事は日本の経済と外交にも及ぶんですよ。
というような言い聞かせる相手もいない話を考えてみたり。
ま、国家神道と靖国なんて外交問題になるか否かに関係なく日本人自身が否定すべきものだったと思います。靖国参拝に賛成でなくても「今は一宗教法人だから」とその存在の継続を容認し「靖国を心の支えにする遺族」の心情への配慮を優先した人々にも現状に対する責任があると思いますよ。自民党の集票マシンである日本遺族会の要望と、その要望に応えるための参拝公約を考えれば、こういう日はいつかやってくるものだったというものですから。
*1:終戦記念日の式辞でアジアへの加害・反省を述べ、A級戦犯は心の中で分祀しているとし、国会では靖国神社・遊就館のような歴史観はとらないと明言。
*2:国会で「侵略の定義は定まっていない」と発言しアジア太平洋戦争が日本の侵略戦争であることを認めたがらず、慰安婦問題意見広告の賛同者に名を連ね、参拝におけるA級戦犯の扱いは明言せず。
*3:個人的には小泉元首相はいけすかないええかっこしいと思っていますし、その靖国参拝も問題だと思いますが、彼がパフォーマーとして優秀で計算高い人間であることは認めざるをえません。
*4:revisionism=修正主義は文脈依存でhistorical revisionism=歴史修正主義と同じ意味で用いられます。
*5:このことが何故か国内では殆ど報道されてこなかったことが日本側の誤解の原因になっているのではと私は思います。