言われたのでゼオライトの性質とかについて調べました

移行係数(移行率)の低さは土中にセシウムが固定されていることを意味しません

放射性セシウムの移行係数(移行率)は植物体の放射性セシウム濃度(Bq/kg)を土壌の放射性セシウム濃度(Bq/kg)で割ることにより求められます。
植物体の放射性セシウム濃度と土壌の放射性セシウム濃度が単純比較できる値でないことはその重量の由来から明らかです。
植物体の重量は何に由来するかといえば、大部分は空気と水です。植物は土中から成長に必要な元素を吸い上げますが、それが植物体の重量に占める割合は僅かでしかありません。
セシウムは植物には不要ですがカリウムと同族の元素(元素周期表1族)で、植物のカリウム吸収とともに吸収されていると考えられています。*1
この植物体が吸収したセシウムのベクレル数を大部分が空気と水に由来する植物体の重量で割ったのが植物体の放射性セシウム濃度であるわけで、植物体の放射性セシウム濃度と土壌の放射性セシウム濃度は別種の値です。
移行係数の計算において、土壌の放射性セシウム濃度は環境を示す値であり、植物体の放射性セシウム濃度はその環境の生産物への影響を示す値であり、単位は同じでも相互に加減算を行うことができる関係の値ではありません。ゆえにセシウムが土壌に留まる割合として「1-移行係数」なんて計算をすることに意味はありません。例えば、3kgの土壌からセシウムを吸い尽くして1kgに育つ植物体、つまり移行係数が3になるだろう植物体を仮定すれば、こういう計算のおかしさが伝わるでしょうか。これはあくまで「1-移行係数」という計算のおかしさを示すための例で、そんな植物は存在しませんが。(殆どの場合、0.01を下回る)*2
移行係数は土中のセシウムが植物が吸収可能な形で溶出している程度と吸収しやすさの両方の影響を受けるので、移行係数の低下は土中にセシウムが固定されていることを必ずしも意味しません。
例えば土中にカリウムが豊富な場合、土中のセシウムカリウムに置換される形で溶出しやすくなりますが、カリウムが豊富だと植物はセシウムを吸収し難くなるので、総合的には移行係数は低くなります。

ゼオライトは選択的にセシウムを吸着するわけではありません

土壌改良剤として知られているゼオライトセシウム対策として持ち上げられていますが、畑に肥料を足しながら使っている限り、移行係数の低下はゼオライトセシウムを吸着していることによるのではないだろうと思います。
むしろゼオライトを施すことによるカリウムの増加が移行係数を下げていると考えた方が自然と思います。

現地ほ場、ポット栽培試験ともにゼオライト施用量に応じて土壌の交換性カリ含量は増加した(図1、2)。土壌の交換性カリ含量が低いほど、ゼオライト施用による野菜の放射性セシウムの吸収量は低下したため、ゼオライトから供給された交換性カリが放射性セシウムの吸収抑制効果に寄与したと考えられた。

http://www4.pref.fukushima.jp/nougyou-centre/kenkyuseika/h24_radiologic/h24_radiologic_27.pdf

このPDFファイルにはゼオライトを施しても放射性セシウムの吸収抑制効果は認められなかった例が載っています。
栽培前土壌の交換性カリが高濃度な場合、もとからそこで得られる植物体の放射性セシウム濃度は低く、ゼオライトを施すことによる低下は見られないわけです。
ゼオライト負電荷を帯びているゆえにCs+を含む陽イオンを吸着しますが、天然の状態でK+なりCa2+なりNa+なりを吸着しているわけで、ゼオライトを施すことでそれが土中の別種の陽イオン(NH4+とかMg2+とか)を吸着し相対的にカリウムを放出すること(置換)により交換性カリ含量が増加しているのではないでしょうか。
そうであるにしろないにしろ、ゼオライトを施すことで土壌の交換性カリ含量は増加しているわけで、土壌は豊富に陽イオンを抱えている状態であり、つまり、ゼオライトセシウムを吸着しても陽イオン置換ですぐに溶出する状態と推測できます。この場合の植物体の放射性セシウム濃度低下はゼオライト陽イオン吸着能力によるセシウム固定の結果というより、カリウムセシウム吸収抑制能力によると見た方がいいのではと思います。
陽イオン吸着能力の低い土壌にゼオライトを施すことはセシウム対策としてある程度の効果を持ちうると思いますが、もともと陽イオン吸着能力が高く陽イオンも豊富な土壌にゼオライトを施しても、その移行係数低減効果は殆どカリウムによるもので、ゼオライトセシウムを固定するからではないでしょう。おそらく、カリウム系肥料でも類似した効果が得られると思います。
セシウムを選択的に固定する能力がある土壌だったりしたら、ゼオライトを施すよりカリウム系肥料を施した方が結果的には良いのではないでしょうか。

除染の基本は表土を取り除くことだと思います

セシウムは降雨がいくらあっても、またいくら湛水して掛け流ししても下方に実にゆっくりにしか移行しない。(2)*3は、1955年から1975年まで原水爆実験が行なわれ世界の土壌がセシウムによって汚染されたが、その後耕作し続けた土壌でも表土50cm以下までセシウム汚染しているところがないことを示している。したがって、表土を10cmほど削り、50cm以上掘って、天地返しすることは、放射能汚染を人間環境から完全に隔離するという点からは、技術的にはベストな方法である。

http://yamazaki-i.org/kou/KOU125_henshubu_mori.pdf

未耕地土壌ではセシウムは概ね深さ10cmまでに留まるので、除染を考えれば放射能汚染事故後の最初の耕作は耕す前に表土を10cm削りとるのが良いと思います。

結局、セシウムをどうしたいのですか?

セシウム対策は何をしたいのかにより変わると思います。
植物が吸収し難いように土中に固定させたいのか、除染のために溶出させたいのか。
セシウムを土中に固定させたいのであれば肥料を施すべきではありません。肥料を施すということはK+なりCa2+なりNH4+なり土壌に陽イオンを供給することとほぼ同じで、それは陽イオン置換によりセシウムの溶出を促すものだからです。肥料を施さず土壌を痩せた状態にしておけば、土壌の陽イオン吸着能力に応じてセシウムは土中に固定されやすくなります。
セシウムを土中に溶出させたいのであれば、その上で植物体への移行係数を上げたいのか下げたいのか。
移行係数を上げたいのであればアンモニア系肥料を多めにすればいいでしょう。移行係数は上がり、その分、植物体に吸収させての土壌の除染は早まります。特にNH4+は雲母と吸着したりしているCe+でも溶出させるようですから土中に固定されてしまったセシウムにも有効でしょう。*4
移行係数を下げたいのであればカリウム系肥料を多めにすればいいでしょう。移行係数は下がり、植物体の放射性セシウム濃度は低くなります。その分、植物体に吸収させての土壌の除染には時間がかかることになりますが。
いずれにしても植物体に移行した分、土壌に含まれるセシウムの量は減少します。植物体が汚染されている分だけ、土壌は除染されます。
「食べて応援」とは長期的には、ある意味、「食べて「薄めて散らす」に貢献」であり「食べて除染に協力」なのだと思います。
汚染の程度が低ければ人間が食べても殆ど問題にならないと分かっていてやっていることであり、それが汚染地の人々への幾らかの貢献になると考えてやっていることなわけです。
仮に生産者の人々が汚染度の高い表土を取り除かずに耕していたとしても「植物体に吸収させての除染」の対象量が幾分増えるということがあっただけで、やることは変わりませんし、生産者の人々が仮にEM菌を信奉していたりとかゼオライトの効果を盲信していたりとかしていても、それをやめることを私はしないでしょう。


以上、id:kurumishinhamaさんへの私信のようなもの。