トンデモと騙す人と騙されやすい人

思想信条を問わず色々なトンデモが世の中にはあります。
軍事にもトンデモな話はあります。
有名なトンデモは「SDIはソ連を経済崩壊させるためにわざとやった」というもの。
これがどういう風にトンデモかというのはいくつかのトンデモ批判本に掲載されているのですが、カール・セーガン博士の「人はなぜエセ科学に騙されるのか」での記述が良くまとまっているのでそこから引用します。

レーガン政権をかばう人たちにに言わせれば、SDIに関しては多少の誇張があったにせよ、それはソ連を崩壊させるためにわざとやった面があるのだそうだ。しかし、こんな言い分を支持するような資料は何一つない。ミハイル・ゴルバチョフ大統領、アンドレイ・サハロフ、イフゲニー・ヴェリコフ、ロアルド・サジェーエフをはじめとする旧ソ連の科学者たちは、もしもアメリカがスター・ウォーズ計画を進めなかったら、ソ連としてはもっと安全で安価な方策、すなわち、すでにある核兵器とその発射システムを拡充する方策を採っていただろうと明言している。つまりスター・ウォーズ計画は、熱核戦争の危険を増やしこそすれ、減らしはしなかったということだ。いずれにせよ、宇宙空間で米国のミサイルに対抗するためにソ連が使った金などは、アメリカのそれにくらべれば取るに足りない額でしかない。それは、とうていソ連経済崩壊の引き金になるようなものではなかったのだ。むしろソ連の崩壊は、計画経済の失敗や、西側の生活水準が大衆に知れわたったこと、瀕死の共産主義イデオロギーへの不満の蔓延、そしてゴルバチョフによる「グラスノチ(情報公開)」政策と関係があるとみるべきだろう(もっとも、ゴルバチョフにはそんなつもりはなかっただろうが)。

一部翻訳ミスがありますが、要するにSDIに対してはソ連は既存の発射システムを拡充して飽和させるだけで対応できたし、そのための費用はSDIにかかる費用に比べれば微々たるもので、米ソの経済力格差を考慮に入れてもソ連経済崩壊の引き金になるようなものではないということです。
ソ連自体の経済崩壊の原因については、他にアフガン紛争での負担が挙げられることもありますが、少なくともSDIはほとんど関係ないというのが常識です。
「SDIはソ連を経済崩壊させるためにわざとやった」というのは明らかにトンデモなのですが、近頃は弾道ミサイル防衛に関する素人談義で「有効な過去の事例」として扱われることがあるようです。
軍事について少しでも合理的に考えられる人であればこんな素人騙しに引っかかるはずもないので、このような主張を行なうのは最初から(SDIや弾道ミサイル防衛を擁護するという)結論が決まっている人(騙す人)か、こういう素人騙しに引っかかってそれを受け売りする半可通な人(騙されやすい人)ということになります。

このトンデモ批判で主張したいこと

・トンデモを論理的に批判するのはしばしば簡単で楽で安易な行為。
・それゆえ、トンデモに引っかかる人は少ないであろうし社会的影響力も少ないだろうと思いがち。
・よって、わざわざトンデモを相手にする手間をかける必要も無いと思いがち。
・しかし、時代によってはそういう素人騙しに引っかかる人は存外に多いこともある。
・そのため、トンデモを放置しておくと手遅れになることもある。

要は、トンデモ批判が簡単で楽で安易でそれゆえ後ろめたく感じられたとしても、きちんと対処しないと後悔する結果になるかもしれないということ。杞憂なこともありますが。(つまり、トンデモはスルーするのでなく対抗言論として敢えてマジレスした方がいいのではという提案)