「そんな格好をしている方が悪い」で女を殴っていることを透明化すべきではない

リメンバー「男はケモノ」論争

「男はケモノ」論争(曽野綾子ミニスカ論争)を知っていますか?
今から十数年前にネットの片隅(主にはてな村周辺)でそういう論争があったのです。
曽野綾子氏の「太ももの線丸出しの服を着て性犯罪に遭ったと言うのは、女性の側にも責任がある、と言うべきだろう」という記事を発端とした論争です。
その大まかな流れの解説として電脳ポトラッチの記事を引用します。

男はケモノだから女が自衛しろ。ミニスカはいたり夜出歩く女は自衛してないからレイプされて当然。

ケモノならケモノの方を檻に入れるべき。何で被害者の自由を奪うん?

お前は差別主義者だな。男はケモノではない。人間だ。人権侵害だ!

はぁ?差別者は「男はケモノ」って言ってる人の方じゃん。

男がケモノだとしても本能だからしょうがない。とにかく女がミニスカやめればいい。

あのー、警察関係者の発言でもデータでも、おとなしくて地味な服装の女性の方が多数被害に遭ってるんですけど。自衛論をぶつなら筋くらい通して下さい。

ミニスカで挑発された男がおとなしい女を狙ってるだけ(データ無し妄想)。ミニスカ女が諸悪の根源。おとなしい清楚な女カワイソス。

https://web.archive.org/web/20091208142407/http://noraneko.s70.xrea.com/mt/archives/2009/1207001329.php

この「ミニスカで挑発された男がおとなしい女を狙ってるだけ(データ無し妄想)。ミニスカ女が諸悪の根源」という考え方は日本社会において特殊なものではありません。

発言があったのは、13日の区教育委員会定例会議。区立中男性教諭が先月、電車内で中3の女子生徒に痴漢をした容疑で現行犯逮捕されたことが報告された直後だった。
区教委庶務課によると、委員は、報告案件とは別の話と前置きしたうえで、「最近電車に乗っていると、女性の度を超えた服装の乱れが見受けられ、指導が必要」という趣旨の発言をした。区教委は「被害女性と直接関係があると言ったわけではなく、『児童・生徒に乱れがないようにしよう』という発言と受け止めている」との見解だ。
しかし、やりとりを傍聴していた女性は「男性を挑発する女性の方にも原因があると言わんばかりだった。公式の場で雑談のような話をするのは不適切で、委員としての資質を欠く」と憤る。

https://web.archive.org/web/20090529142419/http://www.asahi.com/national/update/0528/TKY200905280014.html

というように「性犯罪の原因は女性の服装にもある」という考え方は「古式ゆかしい考え方」な人に珍しいものではありません。要は「女が性犯罪にあうのは性欲をかきたてる服装をする女のせいもある」*1というわけです。

「そんな格好をしている方が悪い」という認識の社会では公的空間での「そんな格好」は許容されない

「男はケモノ」で「服装の乱れ」が性欲をかきたて性犯罪を誘発するという認識が珍しくない社会、性犯罪に対して「露出の高い服装をしていたのではないか」とセカンドレイプされる社会で女性が性犯罪から身を護るための最適行動はどうなるでしょう。
公的空間での「服装の乱れ」は創作物であろうと許容できません。なぜならばそれによる性欲喚起は無関係な女性が性犯罪にあうリスクを引き上げることになる(というように認識される)から。
服装にしても、痴漢等の被害にあったときに(たとえ地味な服装の方が痴漢に狙われやすいと知っていても)セカンドレイプから身を護るための鎧として地味な服を着るしかなくなります。
結局のところ、「服装の乱れ」を性犯罪の原因とし「そんな格好をしている方が悪い」と女性を攻撃することが女性の服装の自由を奪い、公的空間でTPO的に許容される服装表現も制限するのです。

「そんな格好をしている方が悪い」を否定することが女性の服装の自由を広げ、それは公的空間でTPO的に許容される表現も広げる

このような女性が置かれている境遇を考えると、順番的に性犯罪に対し「服装の乱れ」などの「性的魅力で誘惑した罪」で女性が責任追及されることのない社会、服装を理由にセカンドレイプされない社会を作ってからでないと、女性は服装の自由を謳歌できない(あるいは多くの女性にとって自由に対するリスクが大きすぎる)し、創作物であろうと公的空間での「服装の乱れ」も許容できないということになります。
*2
ゆえに「そんな格好をしている方が悪い」で創作物が攻撃されたときになすべきことは、例えば胸揺れ(典型的な性的強調表現)しているキャラを「性的とは思わない」なんて見る目が無いか不誠実なことを言うのではなく、「そんな格好をしている方が悪い」自体を否定することだと思います。*3
勿論それには日本社会が「そんな格好をしている方が悪い」と女性を攻撃し続けてきたことに対する反省も必要で、それを無かったことにするようなことは許されないと思います。

*1:無論、性犯罪の被害にあうのは女性に限らないわけですが、現実問題として被害者のほぼ100%が女性。特定罪種別 死傷別 被害者数(令和元年) https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2021/html/zenbun/part3/b3_s6_12_01.html によれば、強制性交等罪総数122うち女性121、強制わいせつ罪250うち女性250。特定罪種別 死傷別 被害者数(令和2年) https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/whitepaper/w-2021/html/zenbun/part3/b3_s6_12_02.html によれば、強制性交等罪総数124うち女性124、強制わいせつ罪183うち女性183

*2:そういう公的空間での「服装の乱れ」を許容しない言葉として散々女性を攻撃することに利用されてきた「そんな格好をしている方が悪い」が反撃の言葉として用いられることもあるでしょう。それは自らも「そんな格好をしている方が悪い」という認識に染められているからかもしれませんし、相手に「そんな格好をしている方が悪い」を否定させることでの服装の自由における戦略的勝利を目指しているのかもしれません。

*3:とはいえ、女性の性的対象物扱いを促進するような性的強調表現が公的空間で許容されることもないでしょう。例えばトップレス運動するようなフェミニストの目標はトップレスでも女性が性的対象物として扱われない社会、女性の胸が猥褻物扱いされない社会であって、女性を性的対象物として扱う表現を公的空間に置く社会ではないでしょうから