主張における論理の一貫性とわら人形論法

テポドン2と弾道ミサイル防衛(以降MD)に対してある人物が以下の主張を行なっていると仮定します。
A.テポドン2に対して怖いと騒ぐのは馬鹿げている。
B.MDに反対している人がテポドン2に対し沈黙しているのはおかしい。
C.MDに反対している人は北朝鮮とかの手先。


Aは妥当な意見です。
通常弾頭の弾道ミサイルの有効性など低いもの。命中精度が低ければ尚更。人のいる所に落ちるかどうかも怪しいもの。
弾道ミサイルNBC兵器と組み合わせた場合以外はさして脅威にならないことは第二次世界大戦でのドイツのV2、湾岸戦争でのイラクスカッドなどが証明しています。
そもそも北朝鮮のようなチンピラ国家のパフォーマンスに大騒ぎすること自体馬鹿げています。(そういう風に怖がる人がいるのもマスコミがそういう弾道ミサイルの実際の脅威の低さを伝えず恐怖を煽るような報道をしているためというものかもしれません)
チンピラの派手な格好や狂犬のような言動は恫喝で交渉を有利に進めるためのもの。実際の戦闘力は高くないから自らの脅威を演出することで戦闘を避けようとするためのもの。ある種の毒を持つ生物が派手な体色をしているようなものです。
また、チンピラは正業で稼げないから武器や麻薬の密売といった裏家業で生活せざるを得ません。
チンピラの行動はチンピラにとっては立派な生存戦略というわけですが、このようなチンピラの生存戦略北朝鮮にも当てはまります。
今回のテポドン2打ち上げは衛星から監視されていることを分かっている上で日米が騒いで怖がってくれることが望みでやっているか輸出のための技術開発と考えるのが妥当でしょう。
北朝鮮による弾道ミサイル攻撃では相手国を滅ぼせません。もし攻撃目的で撃てば報復で北朝鮮は滅亡。現時点で北朝鮮が攻撃目的で弾道ミサイルを撃つことは合理性から考えればありえません。
人工衛星打ち上げの名を借りたロケット*1の射程距離試験であり、アメリカ本土にも届く能力があることを示すことでアメリカに対する恫喝効果を期待していたか*2、輸出のための性能試験とデモンストレーションを目的としていたか、その両方と考えるのが妥当というもの。(日本上空を通過するのは、地球の自転を利用して射程を延ばすために東に打ち上げるためと被害が出ないように海に落とすためとである意味仕方が無いこと)
差別的な意図で北朝鮮をチンピラに例えているわけではないのですが、バランスを取るために米露中はヤクザ国家、日韓は泥棒国家とでも例えておきましょうか。日本は舎弟国家と表現したほうがいいかもしれませんが。


Bはおかしな意見です。
MD反対派としては無視するのは戦略的に正しい行動の一つです。(別にMD反対派でなくても北朝鮮の意図を読んだ上で騒ぐのは馬鹿げていると思う人はいるでしょうが)
テポドン2に過剰反応し恐怖を煽ることは論理的に馬鹿げているだけでなくMD推進派の思う壺。
北朝鮮は自らの脅威を示すことによる恫喝効果で交渉を有利に進められるようになることを望み、MD推進派はその「北朝鮮の脅威」を利用してMDに予算を付けさせようとするわけですから。
前のテポドン騒動では日本はアメリカからパトリオットミサイルを購入。そのパトリオットミサイル湾岸戦争での実績が示すように実際はあまり役に立たないもの。
MDにしてもかかる費用を考えれば、その金を社会保障に回したほうが余程多くの人命を救えるのではないのかという代物なわけで、前のテポドン騒動の二の舞を避けるのはある意味当然のこと。(通常弾頭弾道弾での死傷者は人口密集地でも数十人から数百人程度でしょうが、一兆円を越す金額で失業や貧困に対策すればゆうに数千人から数万人を救えるのでは?一兆円は一万人で割っても一人当たり一億円という金額)
真っ当に脅威を否定するような発言をしたとしても「必死だな」とか言われたりするかもしれないわけで、無視するのはこういうことに対する妥当な行動の一つというもの。(MDに批判的な軍事評論家の神浦氏はテポドン2に対してコメントしているわけで、Bの意見はそもそも成り立ちませんが)
また、Aでは騒がないことを求めている(あるいは騒いでいる人の無知を馬鹿にしている)のに対し、Bでは騒ぐことを求めているわけでAとBの意見は相互に矛盾しているのもおかしな点です。


Cの意見はレトリックとしてならともかく本気ならば危険な兆候です。
MDに反対している人がどういう理由で反対しているのか理解できず、楽な処理で逃避しているわけで精神的に深刻な問題というもの。
相手の「裏の意図」を読んでそれを攻撃しているわけですが、典型的なわら人形論法*3。有効性を疑問視する意見に対する答えになっていませんし、これではカナダが抜けたことを説明できません。これで裏の意図を読める自分は賢いとか思っていたりしたら目も当てられないと思います。


以上は仮定の上での話で、主張における論理の一貫性とわら人形論法に対する問題提起として取り上げたもので他意はありません。仮定を組み立てる上で参考になった人に感謝。

*1:技術的には半世紀は遅れているレベルの即応性の低い液体燃料ロケット

*2:この場合、前のテポドン騒動での日本におけるような反応が望み

*3:このわら人形論法の不毛さは「MD推進派は軍需産業の意向を受けたアメリカ政府の商売のお先棒を担ぐ連中」とでも対抗すれば伝わるでしょうか