相互軍拡競争は経済力の戦い

【北京=佐藤賢、ワシントン=弟子丸幸子】米国による台湾への武器売却の動きが、米中間の新たな火種になりつつある。米政府は台湾への売却用に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)システムの製造を米ロッキード・マーチン社に発注。反発した中国は米中軍事交流の中断を検討する構えを示し、弾道ミサイル迎撃システムの技術実験も初めて公表、米国をけん制した。米中摩擦は貿易だけでなく軍事にも広がってきた。
中国外務省の姜瑜副報道局長は12日の記者会見で「連日にわたり米国の台湾への武器売却問題について我々の厳正な立場を表明してきた。実際の行動で中米関係の発展を維持するよう米国に促す」と述べ、PAC3の売却停止を求める方針を強調した。中国国防省は「さらなる措置を取る権利を留保する」と、報復措置として軍事交流の中断をにじませた。

米中、軍事面でも新たな火種 米、台湾に武器売却へ - NIKKEI NET


弾道弾防衛兵器は戦術的には防衛兵器だが、メタ的には弾道弾による抑止力を低下させる兵器。
それは通常戦力において劣位で、それを補う手段としての弾道弾配備を抑止力としている国にとっては脅威となる。
通常戦力において優位な国が弾道弾防衛兵器を配備することは、戦力バランス的には通常戦力において劣位でそれを弾道弾で補っている国に対する戦争リスクを高めることになる。
弾道弾防衛兵器はそういう風に戦力バランスを変化させる兵器。


中国のような国が弾道弾防衛兵器の配備による戦力バランスの変化に対抗する手段は二つ。


一つは弾道弾防衛兵器による防御を突破する能力を持つ弾道弾を配備すること。
例えば、弾道弾の未来位置予測ができないような手段−弾頭のステルス化などによる観測妨害や機動性弾頭化による未来位置の変更など−を講じれば、弾道弾に速度で劣り観測した弾道弾の軌道計算をもとにした未来位置の予測でそれを補うような弾道弾防衛兵器(誘導ミサイル型弾道弾防衛兵器が該当)を無効化できる。こういう文脈で見ると、中国の対艦弾道弾は機動性弾頭化による弾道弾防衛兵器突破手段の獲得としても読み解ける。


もう一つは自らも弾道弾防衛兵器を配備すること。


要は「矛」の強化と「盾」の強化。
それは弾道弾防衛兵器とその対抗手段兵器の開発競争と配備競争による不毛な軍拡競争につきあうことであり、軍拡競争に投入する資金と技術の戦いであり、資金力と技術力の戦いはそれを支える経済力の戦いであり、経済力において勝る方が最終的に勝つことがほぼ確定している戦い。
実に不毛な戦いで、意図的に「盾」を制限するABM条約*1にはそういう不毛な戦いを防止する意味もあったろうにと思う。


経済的にも軍事的にも中国を圧倒していた頃の台湾ならともかく、経済力の戦いは今の台湾にとって分の良い戦いとは思えない。*2
政治的にもアメリカのこの武器売却は米中関係も中台関係も悪化させるだけと思う。
しかし、中台関係がアメリカにとって適度な範囲で悪化することはアメリカの国益には適うのだろうなあとも思う。

*1:http://www.mofa.go.jp/mofaJ/gaiko/kaku/beiro/abm.html

*2:経済力の戦いで分が悪くなるのは日本にとっても他人事ではないなあとも思う。明日は我が身。