燃えている黄燐に水をかけると燃えている油に水をかけたときみたいに飛び散る

日本語読解能力も怪しいらしい。 - 誰かの妄想・はてなブログ版の「「棒状の水を注ぐ」とは「直線状の水流で高い水圧を掛ける」こと?」に関して。
http://www.pref.shiga.jp/e/imuyakumu/dokugeki/o01.htmlの「棒状の水を注ぐと溶けた黄りんが細かい粒子となり、飛び散って危険である」というのは、いわば燃えている油に下手に水をかけると煮えたって飛び散り、かえって危険だったりするのと同様の現象。黄燐の方が水より比重が高いので完全に同じというわけではありませんが、液体の「高温で燃焼している水に殆どとけない物質」に水をかけると水が瞬時に沸騰し水蒸気となり、それが「高温で燃焼している水に殆どとけない物質」を弾き飛ばしてしまうという科学的に当然の現象。

(着火した場合)
小規模火災の場合土砂等で覆って消火する。
大規模火災の場合は霧状の水を多量に用いて消火する。

http://www.pref.shiga.jp/e/imuyakumu/dokugeki/o01.html

というような消火方法を取るのには理由があるわけです。消火方法としては単純に水をかけるのが簡単ですが、黄燐の場合はそうすると飛び散って危険だから、土砂等で覆って酸素の供給を断って消火したり、霧状の水を噴霧して消火したりするわけです。


参考情報として「本当の戦争」の焼夷兵器に関する部分の記述から一部引用。

169・火傷を負った場合、どういう手当てを受ければよいのですか?

傷を冷やし、清潔にしなければならない。出血があれば止血しなければならない。ただちに輸血と酸素吸入や補助呼吸などで呼吸を手助けする必要がある。栄養補給、体液の補給もしなければならない。早めに皮膚の移植を受ける。化学物質による火傷の場合、治療する前にその化学物質を除去する。通常、水で洗い流すという方法をとる。しかし、黄燐に水をかけると煮え立ってひろがり、損傷がよけいひどくなる。

「本当の戦争」P91より。
「本当の戦争」自体は50口径を50ミリ口径と訳してしまうような邦訳軍事本にありがちな(ある意味、伝統的な)誤訳が多数ある本なのですが、こういう兵器の名称や分類と関係ない部分はその手の誤訳の影響を殆ど受けない部分。

追記(2009/01/28)

何か勘違いしている人々がいるようなので追記しときます。
白燐弾報道を否定していた人々は、白燐粉塵が発生しうる根拠の一つとして「棒状の水を注ぐと溶けた黄りんが細かい粒子となり、飛び散って危険である」という記述を私が引用した際、「直線状の水流で高い水圧を掛けるから飛び散るのであって普通に水をかけてもそうならない。だから、普通に水をかけても白燐粉塵(有害なフュ−ムの一種)は発生しない」ということを主張していました。
これは白燐が飛び散る理由を棒状注水の運動エネルギーによるものと理解していたことを意味します(まあ、その運動エネルギーで飛び散る分もあるでしょうけど)。そういう理解が燃えている油に水をかけたときのように水蒸気の力で飛び散るというものとは程遠いことは明らかというものです。

科学的にありえないことを書く自称科学者さん

scopedogさんの所でひどいコメントを見ました。
「1科学者として」さん曰く、

まさか、五酸化二燐ではなく気体状の白燐のことを言っているのですか?
だとしたら確かにかなりの毒性を有していますね。
ただし、存在できるならばの話ですが・・・
沸点よりも発火点の方が低く、空気も十分にあるのですよ?
そんなものが存在できるはずはありません。

白燐弾は化学兵器ではないと断言している人はちゃんと条約を読んでいないようだ。 - 誰かの妄想・はてなブログ版

白燐(黄燐)は沸点以下の温度でも気化するので科学的事実として気体の白燐は存在します。
物質が沸点以下の温度でも気化することは、水を例とすれば、お風呂の湯気とか、冷凍庫の氷が昇華により徐々に小さくなっていったりとかの現象で身近で常識的なものです。
お風呂の湯気を例に考えれば

20℃ではほとんど気化しないが、浮遊粒子が急速に有害濃度に達することがある。

http://www.jaish.gr.jp/anzen/gmsds/0571.html

というような記述も理解しやすいかなと思います。


黄燐マッチは毒性が強く、製造に従事する人が、黄燐を含む蒸気を吸い込み、あごの骨が分解する治療不能の骨エソや骨火症をひき起こしたり、幼児がマッチの頭部をなめて命を落したり、殺人や自殺などに使用された事もあった。

http://www.tanaka-match.co.jp/museum/history/1.htm

気体状の白燐(黄燐)が存在できるはずがないのなら、昔の黄燐マッチ製造工場の作業員がこういう症状になることもなかったでしょう。
そのニンニク臭を嗅ぐことも不可能ですね。

気体による害とは明記されていませんが、

災害事例

(1) 化学工場の作業員2名が中毒を起こした。下顎骨及び肝障害を起こした。

http://www.jaish.gr.jp/anzen/gmsds/0571.html

というような記述がされることも無かったのではと思います。


戦災体験での黄燐油脂焼夷弾による黄燐蒸気で化学火傷を負った人の事例紹介とかはあえてしない。
以前のように「黄燐に焼夷効果なんてない」「黄燐を主剤とした焼夷弾なんてない」「第二次世界大戦において米軍が日本に黄燐焼夷弾を使ったのなんて嘘」とかいう人々に戦災体験者が嘘つき呼ばわりされたり勘違いした人呼ばわりされたりすると悲しいので。
どうせそういう証言は証拠として認めないでしょうし。

追記(2009/01/31)

自称科学者さんがこういうことを書き込んでいました。

さらに比較に出してきた例が水とは・・・
酸素との反応性が非常に高い白燐と、安定な水とを同列にするとは
はっきり言って問題外です。
また、「20℃ではほとんど気化しないが、浮遊粒子が急速に有害濃度に達することがある。」
の引用などは全く意味が違います。
浮遊粒子は当然気体ではなく固体です。
さらに、この浮遊粒子が急速に有害濃度に達することがあるのは
20℃という低温かつ室内などの無風条件だからです。
粒子の表面だけが酸化しかつその酸化物が剥がれ落ちないばあい
酸化物の皮膜に守られるようにして未反応の白燐粒子が漂うことになります。

私が何のために例えを持ち出したのかをまったく理解していないようです。
お風呂で湯気が舞うためにも、黄燐の浮遊粒子が発生するためにも、気化してからの凝縮もしくは凝結という過程が必要であり、その過程の間は物質は気体として存在しているということの当たり前の例えなのに。
お風呂で湯気が舞うためには、水の蒸発→凝縮という過程が必要であり、お風呂の湯水全体で見れば、水は殆ど気化していませんが、その過程の間、水は気体として存在しているわけです。
同じように、黄燐は気温20℃という常温では殆ど気化しませんが、黄燐の浮遊粒子が発生するためには昇華→凝結の過程が必要であり、その間、気体の黄燐が発生しているわけです。黄燐は気化した途端に酸素と反応してしまうから気体の黄燐は存在しえないというのは、反応速度という要素を無視するという非科学的態度抜きにはありえないというものです。

燃えている白燐への対応として当然のことを書いたら「学会での発表」を勧められた件

燃えている黄燐に水をかけると燃えている油に水をかけたときみたいに飛び散る - 模型とかキャラ弁とか歴史とかの記事に対して

b:id:xiao_bancho ちょう兵器白燐爆弾 千年以上前から知られてる物質の基本的取り扱い方法が間違ってたらえらいことなんだが。消防関連の学会で発表したら?そしてパレスチナの話は白燐の煙に乗って彼方へ飛んでいってしまった。

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20090123/p1

というブックマークコメントがついたので、一応説明しときます。
既知の知識を学会で発表してどうするというのでしょうか。

5.火災時の措置

消火剤:

小火災:粉末消火剤、ソーダ灰、石灰
大火災:乾燥砂、粉末消火剤、ソーダ灰、石灰

使ってはならない消火剤:

水、泡消火薬剤、二酸化炭素

特有の危険有害性:

引火性が強く爆発することがある。
フレアー燃焼効果により速やかに燃焼するおそれがある。
加熱されたり火炎に巻き込まれると、爆発的に分解するおそれがある.
消火後再び発火するおそれがある。
火災によって刺激性、毒性、又は腐食性のガスを発生するおそれがある。

特有の消火方法:

散水によって逆に火災が広がるおそれがある場合には、上記に示す消火剤のうち、散水以外の適切な消火剤を利用すること。
危険でなければ火災区域から容器を移動する。
移動不可能な場合、容器及び周囲に散水して冷却する。
消火活動は、有効に行える十分な距離から行う。
容器内に水を入れてはいけない。
消火後も、大量の水を用いて十分に容器を冷却する。

消火を行う者の保護:

消火作業の際は、適切な空気呼吸器、化学用保護衣を着用する。

http://www.jaish.gr.jp/anzen/gmsds/0571.html

で、「容器内に水を入れてはいけない」と書いてあるように一度発火した黄燐に水をかけるのは危険。
水をかけても大丈夫なら、この安全衛生情報センターの説明文の「使ってはならない消火剤」に水が挙げられている意味が分からない。
理由はブックマークをつけられた記事に書いたとおり。
消防関連の学会で発表するまでもない、火災時の黄燐の措置としては危険物取り扱い知識上の常識。

ブックマークコメントで

D_Amon セルクマ id:xiao_bancho氏をはじめ、分かっているつもりで分かっていないことを書き込んでいる人は、燃える前の白燐に対する処置と燃えている白燐に対する処置とを混同していると思う。この記事の記述は危険物取り扱い上の常識。

とも書いたのですが、この件では燃える前の白燐に対する処置と燃えている白燐に対する処置とが混同されている例が多いと思います。
燃える前の黄燐を水で洗い流したり水の中で保管するのは正しい措置ですが、燃えている黄燐に下手に水をかけるのは危険。