安保ただ乗り論と日本の国防費

世の中には「日本は日米安全保障条約にただ乗りしている」という安保ただ乗り論を展開し、それを前提としてただ乗りの是正のために核武装とか軍拡とか改憲とかを主張する人がいますが、そもそもの安保ただ乗り論が誤りです。
日本がアメリカの軍備にただ乗りしているのではなく、アメリカが日本の軍事大国化を防ぐために日本に在日米軍を置いているのです。
在日米軍は日本を軍事大国化させないための重し」という認識は、戦後の軍事力の解体とGHQによる統治の歴史を含め、戦後一貫したものです。特に冷戦が終了し在日米軍の反共のための配備としての意味が薄れてからは顕著です。
戦後の日本で安穏と暮らしている分には馬鹿げた話に思えますが、GDP的には日本の軍事大国化はそう馬鹿げた話ではありません。
世界軍事情勢〈2005年版〉」P338より。
GDP(2003年)

額(億ドル)
米国 109000
日本 43400
ドイツ 24100
英国 18000
フランス 17500
イタリア 14700
中国 14300
ロシア 13100
カナダ 8680
スペイン 8420

国防支出費(2003年)

額(億ドル) GDP
米国 4089 3.3
ロシア 652 4.9
中国 560 3.9
フランス 457 2.6
日本 428 0.9
英国 428 2.3
ドイツ 351 1.4
イタリア 277 1.8
サウジアラビア 211 9.3
インド 155 2.6
韓国 146 2.4

日本のGDPアメリカを除けば突出しており、GDPで見る限りでは日本は税制と予算編成を変えれば(少なくとも金額面では)容易に軍事大国化できる潜在能力を持った国です。
アメリカは日本の同盟国ですが、アメリカには日本が強い軍事力を持つことに対して根強い不信感があることも同時に認識しておくべきです。*1
核武装や軍拡は日本の国是に反するだけでなく、「アメリカの日本統治方針」にも反するというわけです。先頃の核武装論や先制攻撃論に対するアメリカの懸念も当然のことです。
安保ただ乗り論は多分に人間の良心というか後ろめたい気持ちに訴えかけることを念頭に置いた手段であり、軍拡や核武装の方が目的の論でしょう。
日本の軽武装*2と平和外交は、日本の経済成長と日本への好感度に貢献するためだけではなく、アメリカを含め国際社会の信用を得るために有効な手段でもあるわけです。核武装や軍拡は「軍事力で責任を果たすことで国際的な信用を勝ち取る」というより、むしろ日本への不信の感情を増大する危険性をはらんでいます。未だ旧敵国条項が有効なことを忘れてはならないのではないでしょうか。

*1:今はそうでもありませんが、特に80年代から90年代のアメリカでは日本の経済成長に伴う「日本による経済侵略」もあって反日感情が強かったことも忘れるべきではありません。

*2:といっても現代ではアメリカを除いて日本に侵攻できる国が存在しないほどの軍備ですが