パブリックコミットメントとブーメラン効果

ここでのパブリックコミットメントとは公的な場で意見を述べたりする(コミットメントする)こと。
人間には以前のコミットメントと筋の通るコミットメントをしようとする心理的傾向があること(一貫性)、そのコミットメントが周知であればあるほどその傾向が強まることは影響力の武器 - 模型とかキャラ弁とか歴史とかで紹介した書籍の「コミットメントと一貫性」の項にも記述があることです。
そういう自らのコミットメントが周知となるような公的な場でのコミットメントをパブリックコミットメントと呼びます。まんまの言葉ですが訳語で原語の含みを伝えられる文章力が私には無いのでカタカナ語で。
「コミットメントと一貫性」に則れば、パブリックコミットメントは大勢の前で発言することにより自らを引っ込みがつかない状況にする行為なわけです。

ブーメラン効果とは説得において相手を説得しようとすればするほど相手が自分の意見に拘る現象や、相手に説得を拒否されると説得しようとする人自身が前より自分の意見に拘るようになる現象のこと。こういう逆効果を、投げても逆戻りしてくるというブーメランの特徴をもって喩えているわけです。
説得を受け入れて自らの意見を変えることは相手の意見に服従すること、つまり相手に対する屈服なわけで、説得により意見を変えることに対し虚栄心から抵抗や反発を感じるのはある意味当然のことです。
意見を変えることは過去の自分の行動と矛盾する一貫性を損なう行為であり、場合によっては信頼を失いかねないということも意見を変えることに対する抵抗や反発として働くでしょう。

公的な場で意見を主張してしまった人の意見を説得で変えるのは難しい

似非科学等のダマシに対抗するにあたって、ダマシの言葉を信じている人々(以降、ビリーバー)にどのように対応するかは問題の一つです。
公的な場で意見を主張していなければまだいいのですが、公的な場で意見を主張してしまっている場合、その後は一貫性により同様の意見を主張し続けることになりますし、それに対して下手な対応をするとブーメラン効果でさらにその意見に拘らせる結果になりかねません。ビリーバーへの説得が返ってビリーバーの信仰を深くし、ビリーバーの説得を拒否することが返ってビリーバーの信仰を深くしかねないということです。

ネット上での発言はパブリックコミットメント

ネット上でのビリーバーとの対話が不毛になりがちな要因の一つとして、ネットが公的な場であることも関係しているかもしれません。
ネット上での議論は望む望まないに関わらず不特定多数の閲覧者がいる公開討論となってしまいます。ゆえに発言者の主張の変化も不特定多数に知られてしまうことになります。
相手の説得により意見を変えることは、その意見に同調する「仲間」に対する「裏切り」であり、それは今まで培った「交友関係」を失う危険性があることを意味します。これはネット上での「つながり」を求めている人の「一貫性」を強化してしまう要因となりえます。

パブリックコミットメントが悪いというわけではない

パブリックコミットメントにより引っ込みがつかなくなること自体に善悪はありません。使い方次第で良い方にも悪い方にも働きます。
その特徴は目標実現のために自身を制御するのにも使えます。例えば、目標を公的に宣言することにより自らを目標実現のために積極的に努力せざるを得ない状況に追い込むといったように。このようなパブリックコメントは結果として目標を達成する確率を引き上げます。

いかにしてビリーバーの意見を変えさせるか

ネット上に限らずビリーバーに説得を試みれば試みるほど相手が依怙地になるという現象はありふれています。
「好意」や「権威」や「社会的証明」等で説得に対する抵抗や反発を抑え込まない限り、説得でビリーバーの意見を変えることは非常に困難でしょう。
ブーメラン効果を考えれば強引な説得は逆効果でしょう。相手が根負けするまで付き合えるのであれば、強引な説得も有効になるかもしれませんが、一般的にはそれだけの労力を割くのは困難でしょう。それに、そういう強制的なコミットメントの心理的効果は低いものです。仮に強引な説得により意見を変えさせることができたとしても、それは根負けした結果の表面だけの服従かもしれませんし、そうであれば、その服従は容易に翻されることでしょう。
論理面での説得だけでは意見を変えないからビリーバーなわけで、ビリーバーの意見を変えるには心理面において上手く相手の抵抗や反発を引き起こさない方法を考えねばなりません。(心の問題ですから完全な正解は無いも同然ですが、)無理な説得は行なわず聞き上手に徹しつつ、「『信仰』の誤りに自分で気づいた」と思わせるように(ときには誘導するための手がかりを予め配置するなどしながら)手がかりのもとにそれとなく誘導してあげるのが期待値の高い方法なのではないかと思います。
ただし、これは相手の説得を目的としている場合の話で、相手の説得を目的とせず相手の主張を打ち砕くことによりこれ以上ビリーバーが増えることを防ぐことを目的としている場合は別です。