徴兵より志願兵の方が強い?

徴兵制なり、政府が国民を志願せざるを得ない状況に追い込むことはありえない。
ただ単純に、徴兵より志願兵の方が強いから。
至上命題が戦争で勝つことである限り、徴兵制はまずありえない。

徴兵制を巡っての話題でこのような俗説を目にすることがある。
結論から言えばこの俗説は誤りだ。
イスラエルは徴兵制だが精強で知られる。徴兵制だからといって士気が問題になることは殆ど無い。軍事に対する国民の意識が徴兵制でも高い士気を維持するからだ。
米軍海兵隊は精強で知られるがその強さに徴兵制とか志願制とかは関係ない。米軍海兵隊が精強な理由はその非人間的な訓練にある。その訓練における人格破壊プログラムと兵士としての人格形成プログラムが海兵隊員を精強な兵士とする。一般社会のモラルと戦場のモラルは異なる。訓練において兵士は人道的である限り人間扱いされず人間の尊厳を砕かれ、兵士として適応することで賞賛される。軍隊という基本的に脱出できない閉鎖的な環境で虐めぬくことによりそれまでの人格を破壊し、新たに兵士としての人格を植え付けることによって精強な兵士が誕生する。その訓練の厳しさは映画フルメタルジャケットの前半どころではない。
訓練プログラムでは徴兵制に対する嫌悪でさえ「奴らのせいで俺は徴兵されて苦しまなくてはならないのだ」というような敵意に変換される。
徴兵より志願兵が強いという幻想は、おそらく志願者の士気という人間の精神力に対する過剰な期待によるものと思われる。計算された訓練プログラムにより容易に人間の精神が作り変えられてしまうという現実のもとではそういう幻想は成り立たない。人間の精神は脆くて弱い。その弱さを認識して自衛していない限り、高度な人格改造に対抗することは殆ど不可能だ。
徴兵より志願兵の方が強いということはない。徴兵制による士気の問題は国民意識次第でどうにでもなるし、そもそも兵士が人を殺せるようになるには軍隊での人格改造の方が重要だ。
面倒なのでですます調になおさない。