白燐弾報道をデマとするデマに対して

Q.白燐弾報道とは?
A.イタリア国営放送「RAI」による米軍によるファルージャでの非戦闘員を含む無差別大量殺戮に関する報道のことです。攻撃風景や多数の死体画像と共にこの攻撃が白燐弾によるものであることが報道されました。他に、イラクでのMK-77というナパーム弾使用も報道されました。

2004年11月の米軍によるファルージャ攻撃

Q.白燐弾はどのような兵器ですか?
A.白燐弾は白燐を使用した煙幕と焼夷の両用兵器です。(他に、照明に信号にと多用途)
昔から黄燐焼夷弾・黄燐煙幕弾として使われてきた実績のある兵器です。
ハンブルク空襲当時の参考記事(この記事に対し「当時の米軍は陸軍と海軍で独立空軍は無い筈」なんてボケは無しの方向で)
白燐(黄燐)は燐鉱石を原料としており、燐鉱山がある国では安価に製造可能で、同様に焼夷兵器として用いられるナパームとはその特質の違いにより使い分けされます。(森を焼き払うにはナパームの方が適していますが、石造建造物市街地の人間を煙幕で視界を封じることで逃走経路を奪いつつ焼き殺すには白燐弾の方が適しています。また携帯性も通常ナパームより白燐弾の方が上。要は戦術的な適材適所ということです)
白燐は、体に付くと取れにくい、猛毒で燃焼性の高い物質で、微量でも体に付くと化学火傷を引き起こす性質も持ちます。白燐はその毒性や被害の残酷性から対人使用は禁止されています。(煙幕や照明として使用する分には合法)
参考(和訳)



Q.ファルージャでの白燐弾の使用の何が問題なのですか?
A.焼夷兵器として対都市無差別攻撃に用い対人使用したことです。
米軍が白燐弾を焼夷兵器として対人使用したことはペンタゴンのスポークスマンも認める事実です。
無差別攻撃は国際人道法違反です。
また非人道兵器の対人使用(ジュネーブ条約追加議定書)に該当し焼夷兵器の非合法使用(特定兵器禁止条約)にも部分該当しますが、アメリカはそれらの条約を批准していません。しかし、批准していないからといって違反にならないというわけではありません。対外的武力行使には相手が存在するからです。(例:第二次世界大戦時の日本はジュネーブ条約に調印はしていても批准はしていませんでしたが、戦後、捕虜の虐待により裁かれました)
ただ、この無差別殺戮の生存犠牲者と目撃者には明確な人道に対する罪として記憶されるでしょう。未だ裁かれない数多の米軍による無差別戦略爆撃と同じように。
ちなみに米軍は黄燐焼夷弾(白燐弾)の対人使用はジュネーブ条約違反と兵士に教え込んでおり、米軍が白燐弾ジュネーブ条約違反の兵器と認識していることには間違いありません。

ある寒い雨の日、ワシントン州フォート・ルイスでは訓練が行われていた。捕虜に関する課題を終えたばかりの兵士たちが話をしている。敵軍は持続性神経ガスの充満する地帯を行進させればいいと言う者、捕虜の始末には指向性破片地雷(クレイモア)こそいちばん安上がりで手つとり早いと言う者、どっちもむだだ、地雷の撤去とか、核や化学兵器の汚染地域の偵察に利用するのがいちばんだと言い張る者。近くに立っていた大隊付きの牧師が、これはどう見ても倫理的な問題だと口をはさんできた。
牧師はジュネーヴ条約を引用して、わが国は正義の軍隊であって、神を助けて大義を実現せねばならないと論じた。だがこんな道徳論では、現実的な兵士たちにはたいして効き目はない。ジュネーヴ条約は却下され、過激な意見が飛び出した。「ジュネーヴ条約では、黄燐焼夷弾を軍に向けて発砲してはならないと定めているから、敵の装備に当たったと主張すればいい」と教官に教わったが、と若き砲兵は言う−「条約を出し抜く方法をこっちが考えつくぐらいだから、敵だって考えついてるはずですよ」。また別の兵士も口を開いて、「ロシアの捕虜になったら殺されるかもしれない。敵に同じ薬を盛ってなにがいけないんです」。牧師の「正義」や「神を助ける」ということばに対して、冷たい雨に濡れた兵士たちの考えは「正義は銃身から生まれる」、「歴史は勝者がつくる」のほうへ傾いていた。<ジュネーヴ条約と黄燐焼夷弾>の話は、私もフォート・ベニングで聞いている。士官候補生学校での大砲の射角に関する講義でも、歩兵将校基本コースでも、レンジャー養成校でも、そして歩兵迫撃砲小隊将校コースでも聞かされた。捕虜の扱いについて述べたレンジャー養成校の教官は、自分の考えをはっきり伝えていたものだ。いわく、襲撃や待ち伏せの際には捕虜をとるものではないと。私の見るところ、レンジャー大隊出身の優秀な若い兵士たちは、大半がこのレンジャー養成校ばりの考えかたを身につけてくる。

戦争における「人殺し」の心理学」より引用。この本は米軍人が書いた本であり、つまり、これは米軍人が米軍について書いた情報です。


Q.白燐弾報道はデマ報道ではないのですか?
A.報道を扱った人々の知識不足により、焼夷兵器としての効果まで化学兵器としての効果と混同するような誤認が見受けられたのは事実ですが、白燐弾使用によるファルージャの惨状を伝えたことも事実で、それ自体は優れて評価されるべきことでしょう。
この報道に加えて、雑誌に掲載された米軍兵士による白燐弾の有効性を示す記事により、当初は「煙幕や照明として適切に使用した」というアメリカの主張が「焼夷兵器として対人使用した」という風に変わりました。
白燐弾報道があったからこそ、このようなアメリカ側の主張の変遷があったわけで、むしろ白燐弾報道は人々に真実を知らせる報道としての役割を大いに果たしたといえます。
これをデマ報道とする批判は典型的な荒唐無稽化工作で、報道を誇大解釈した上でそれを否定して報道自体の信頼を失わせようというものです。
ファルージャの惨状は典型的な焼夷兵器による被害と同様のもので、アメリカも白燐弾を焼夷兵器として使用したことを認めている以上、報道をデマとして否定することの方がおかしいというものです。



Q.対人兵器としては白燐弾より榴弾の方が効率が良くないですか?
A.野外の標的であれば榴弾の方が有効ですが、ファルージャは市街地であり建造物内の標的には榴弾より焼夷兵器の方が有効です。建造物内の標的には榴弾より白燐弾の方が有効なことはペンタゴンのスポークスマンも認める事実です。



Q.白燐弾は焼夷兵器として有効なものですか?
A.焼夷効果自体はナパームに劣るものの、十分焼夷兵器として有効な兵器です。第二次世界大戦における連合軍による黄燐焼夷弾(白燐弾)の使用がそれを証明しています。
また、白燐弾使用の動画、焼け焦げた死体、火傷を負った犠牲者(高温による重度の熱傷は傷口が溶けたようになることがあります。例:ベトナム戦争でのナパーム弾の犠牲者)、焼け焦げた建造物が、白燐弾ファルージャで焼夷兵器として有効に機能したことを証明しています。
参考:
『私は皮膚が溶けた患者を治療した』
過去の事例:
白燐弾による火傷の画像1
白燐弾による火傷の画像2
1995年2月、カレン民族同盟(KNU)に対する通常兵器での要塞攻略に行き詰ったビルマ軍は、白燐弾や化学弾を用いることで要塞を陥落させました。



Q.焼夷兵器ならば外傷の無い死体はどういうことですか?
A.焼夷兵器による死亡は焼死に限りません。他に、燃えないまでも生存不能な高熱による熱死、焼夷兵器自体の材料として使われた毒性物質や不完全燃焼で生じた毒性物質等による中毒死、酸欠や呼吸困難による窒息死、建造物倒壊による圧死、焼夷兵器炸裂時の破片による致命傷と多岐に渡ります。
熱死、中毒死、窒息死であれば外傷は無くても当然です。
焼夷兵器はその影響範囲における無差別殺戮性において化学兵器と変わりません。
参考:ニュルンブルク空襲での死者(映画「13階段への道」より。左上:空襲で燃える街。左下、右上、右下:空襲の犠牲者)


Q.自衛隊が演習で使用して大丈夫な兵器が、何故ファルージャでは無差別殺戮兵器なのですか?
A.どちらも白燐弾の使用という点では同じですが、使用条件がまったく異なります。
「演習場の人のいない所への限定使用」と「人のいる市街地への大量使用」では条件がまったく異なります。
いかに威力のある兵器も人のいない所に対して使えば犠牲者はでませんし、威力のない兵器も人のいる所に対して使えば犠牲者がでます。
まして自衛隊が演習で使用する白燐弾ファルージャでの白燐弾使用動画のように爆発で飛び散った破片が閃光を放って再度爆発したりしません。
「火」という条件が同じでも、「風通しの良い野外での焚火」と「風通しの悪い市街地での大火災」は違いますし、「管理された焚火」と「放火による大火災」も違います。
「使われたのは白燐弾」という条件が共通しているからといって、結果も同じになると考えるのは、他の条件の違いを加味して結果を考えられないことの証明というものです。
(「自衛隊が演習で使用して大丈夫な兵器なので人に対して使用しても安全」を真とすると、戦闘機や戦車による火器を用いた攻撃でも安全ということになるでしょうに。この場合の重要な条件は「人のいる所に対しての使用か、人のいない所に対しての使用か」、「限定使用か、大量使用か」、「白燐弾自体の威力の違い」で、こういう条件の違いが分からずに騙されるような人は論理学を基本から学んだ方が良いでしょう)



Q.焼夷兵器で服は必ずしも燃えないというのは変ではないですか?
A.白燐の破片は飛び散っているときは空気に冷やされて固体ですが、着弾して停止すると自らの燃焼熱で液化します。服が必ずしも燃えないのは白燐が液化して染み込み、流れていくためで、白燐が食いつく人体とは異なり服は燃え残ることがあります。
時折起こる白燐弾の使用で服が燃え残る現象は「服だけ残して溶かす」のではなく「液化した白燐が流れていったために服が燃え残った」というのが正解です。*1
特殊な現象というわけではなく、湾岸戦争での白燐弾の使用でも同様の現象が確認されています。(当時はクウェートに侵攻したイラクに対しての使用であったために問題にならなかっただけです)
参考:「戦争中毒」より湾岸戦争での米軍の攻撃の犠牲者の画像



Q.防護具も有効でないというのは?
A.ゴム製など熱溶融性の防護具は白燐の燃焼熱で溶けて穴があいてしまうためです。防護具は燃えている白燐の直撃にはあまり役に立ちませんが、白燐の蒸気や霧や粉塵には有効です。



この記事に対するコメントは以下の設問に対する解答が推奨されます。
問1:ファルージャでの女子供といった非戦闘員を含む大量死は米軍の攻撃の結果ですか?答えは「はい」か「いいえ」で。
問2:問1で「はい」と答えた場合、それは白燐弾報道で示されたような攻撃によるものですか?答えは「はい」か「いいえ」で。
問3:問2で「いいえ」と答えた場合、あのような被害をもたらす攻撃にどういうものがあるか具体的に答えてください。(「米軍が使用を認めていないナパーム弾によるもの」といったように)

改訂

2005/01/06 一部リンク修正、「焼夷兵器自体の材料として使われた毒性物質や」を追記。

2005/01/24 ファルージャ攻撃の模様のgif画像を追加。このgif画像は「Falluja, April 2004 - the book 白燐とはどういうものか、何のために使われたのか、「化学兵器」なのか」より引用させていただきました。

*1:服だけ残して白骨化している遺体について:遺体の中には衣服の上に蛆虫(ハエの幼虫)と思われる白い粒が散らばっているものも見られます。仮にその白い粒が蛆虫の場合、白骨化した遺体は蛆虫に食い尽くされた結果かもしれません。条件がそろえばハエは短い期間で死体を白骨化できますから。