白燐弾報道において被害者も報道も人権団体も嘘つきではない(追記あり)

これらの動画はイスラエル軍のガザ攻撃における白燐弾の使用を扱ったものです。


見れば分かりますがかなり大きな(といっても目測で3〜4cm程度ですが)破片が燃え残ったままばらまかれたことがわかります。
どのような攻撃を行えばこのようになるかは後で説明します。
その前に白燐弾の用法について簡単に説明します。

1.通常の煙幕としての用法


上空高くで爆発するように信管を設定した上で高い弾道で打ち上げる方法。
煙幕の展開には通常このような撃ち方をします。白燐弾の破片は煙を出しながら落下していき簾のように煙幕を展開します。
このように撃てば白燐弾の破片は長い距離を落下する間に燃焼と空気抵抗によりそのサイズと運動エネルギーを大きく減じます。
破片は落ちてきてもかなり燃え尽きている上に空気抵抗で減速した小さくて低速なものが落ちてくるにすぎません。また、ばら撒かれる範囲も広く単位面積あたりに落ちてくる個数も少ないでしょう。
このような用法であれば報道されているような被害は生じえないでしょう。

2.焼夷兵器としての用法1


1と同じような弾道で打ち上げますが低空で爆発するように信管を設定する方法。
砲弾の落下速度と爆発の運動エネルギーのかなりを維持したままの大きな破片がばらまかれ、相応の焼夷効果と破片効果を発揮します。
塹壕に潜む敵兵などを焼くのに有効な方法です。
一例として「レイテ戦記」で米軍が日本兵に対して使用したものをあげます。

その夜第八五化学砲隊がこの日本軍陣地を目標に五〇〇発射撃した。二十日の夕方十字架山の攻略にも用いられた白燐砲弾である。時限信管により地上一〇メートルで爆発、壕にひそんだ兵士に燃焼性物質を浴びせる。

レイテ戦記(大岡昇平中央公論社、1971年)P78より。

3.焼夷兵器としての用法2


低高度で爆発するように信管を設定し低い弾道で発射する方法。
「白燐の破片をばら撒くショットガン」的な使い方で、砲弾の飛翔速度と爆発の運動エネルギーのかなりを維持したままの大きな破片を地上に向けてばら撒き、相応の焼夷効果と破片効果を発揮します
一例としてノンフィクション「Citizen Soldiers」でシャーマン戦車がドイツ軍の機関銃陣地を攻撃するのに使った方法をあげます。

Attack teams consisted of one tank, an engineer team, a squad of riflemen, plus a light machine gun and a 60mm mortar. The Sherman opened the action. It plowed its pipe devices into the hedgerow, stuck the cannon through, and opened fire with a white phosphorus round into the corners of the opposite hedgerow, intended to knock out German dug-in machine-gun pits.


攻撃部隊は戦車一両、工兵部隊、小銃手分隊、加えて、軽機関銃と60mm迫撃砲から成っていた。シャーマン戦車は行動を開始した。砲身を生け垣に突っ込んで、砲口を通し、向かいの生け垣で隠れている場所へ白燐弾を撃った。機関銃陣地に伏せているドイツ兵をノックアウトするために。

Citizen Soldiers」P67より。翻訳は引用者による。
このように運動エネルギーを維持したままの白燐弾の破片はぶつかったときの衝撃で周囲に火沫をまき散らしますし、人体のような軟目標であれば突き刺さることも十分にありえます。
当然、人体に直撃すれば広範囲に火傷を負うことになりますし、地面や壁にぶつかったとしても近くにいればそういう火沫を浴びることになりますし、可燃物があれば高い可能性で着火されます。
2の用法とは異なり塹壕に潜む敵兵などにはあまり役に立つとは言えない用法ですが、屋外の対象に有効なだけでなく、建造物の窓などにも破片が飛び込みやすい用法といえるでしょう。
そして「煙幕弾として適切に使用」というような言い訳のきかない方法でもあります。
2の方法であれば「信管の設定を間違えた」などの言い訳ができますが、この方法では砲身の角度により意図が明確ですから。
こういう方法でも「煙幕弾として適切に使用」といえる場合もありますが、それは影響範囲が無人地帯であればの話です。

イスラエル軍のガザ攻撃における白燐弾の使用


この画像は2009年のイスラエル軍がガザを攻撃したときのものですが、白燐弾が2や3のような種類の方法で使われたことを示しています。(報道を見れば1の用法でも使われたことが確認できますが)
イスラエル軍が使用した白燐弾は白燐がフェルトに含まれた状態でばら撒かれるタイプとされますが、フェルトに含まれていようがいまいが、砲弾の飛翔速度と爆発の運動エネルギーのかなりを維持したままの白燐弾の破片はこのように火沫を撒き散らすことがこの画像からわかります。
このような高速で飛来する白燐弾の破片はぶつかった場所の摩擦係数とぶつかった角度によっては「兆弾」することもありうるわけですが、その角度が破片の高速さを示しているというものでしょう。破片が低速であればこれらの破片がもっと曲がった放物線を描いて飛ぶでしょうから。
このようにしてぶつかった衝撃により飛び散った白燐の火沫は短時間で燃えつきる一方、フェルトに含まれたままの部分は長時間燃え残ることになります。
大きな白燐弾の破片がガザの街に多数ばら撒かれた状態というのはこのような攻撃からしばらく時間が経った後の姿なわけです。
そしてガザの街に散らばる白燐弾の大きな破片はイスラエル軍が低空で白燐弾の破片をばら撒くような使い方をしたという動かぬ証拠であるわけです。
イスラエル軍のこのような白燐弾の用法により事実としてガザでは多数の人が殺傷され国連の支援物資は焼かれ国連のものを含む建造物が炎上しました。*1


以下には残酷な画像が含まれますので「スーパー続きを読む記法」で書きます。
負傷者と焼死体の画像がありますのでそういうのが駄目な人は絶対に見ないでください。


高い運動エネルギーを維持したままの白燐弾の破片がぶつかったときの衝撃で火沫をばらまく以上、それを浴びれば大小無数のやけどを負うのは当然ですし、その破片は高い運動エネルギーにより肉をえぐりとることも十分にありえます。
この被害者の画像のように。

この画像はおそらく治療を受けた後のものですが、それでも大小無数のやけどを負い肉をえぐられたことは確認できるでしょう。

右足の肉がえぐれ、両足には大小無数のやけどを負った。医師は空気と反応して発火する白リン弾を受けた可能性が高いと診断。皮膚に付くと骨まで溶かすほど激しく燃える「非人道的兵器」だ。

【魚拓】がれきの街の子どもたち:パレスチナ・ガザ2009/2 「白リン弾」続く苦しみ - 毎日jp(毎日新聞)

つまり、このような種類の報道は事実です。

また、破片が体に突き刺さりうること及び破片が空気に触れれば再発火することから、

チームはまたガザの主要病院であるシファ病院も訪れた。そこで彼らはリンによる火傷などの傷の処置の難しさについて医療スタッフと話をした。火傷治療担当のチーフが語ったところでは、最初、スタッフたちは白リンによる傷を処置していたことに気づかなかったという。彼は、不快な臭気を放ちながらどんどんひどくなっていく尋常でないオレンジ色の火傷について説明してくれた。数時間後には、傷から煙が上がり始めたという。

http://www.amnesty.or.jp/modules/news/article.php?storyid=583

というようなアムネスティの記事も事実でしょうし、黄燐が猛毒であり体に突き刺さったままであればその毒の影響を受けることから、

白リン弾による火傷を負った人びとの症状は急速に悪化することがある。身体の表面の比較的小さな領域、10〜15パーセントに火傷を負った人たちは、通常は生存するものだが、こうした人びとでさえ悪化して死ぬことがあるのだ。

というようなアムネスティの記事も事実でしょう。
そして「白燐の破片をばら撒くショットガン」が直撃すれば大量の燃える白燐を浴びたことにより全身を焼かれることも十分にありえます。
この被害者の画像のように。

画像には骨が露出するほど焼かれた赤ん坊の姿が写っています。
成人のこの種の画像もありますが、あえてこの画像を選んだのは「この赤ん坊がテロリストであることがありえるというのか」と思うからです。


このような白燐弾の使用の合理性を問われれば、その一例として民間人を攻撃しても「国際法違反ではない」と言い逃れができる兵器だからと私は答えます。
民間人に対する攻撃は国際法違反ですが白燐弾であれば「煙幕として適切に使用した」と言い逃れができますし、その言い逃れに自ら進んで加担してくれる人々も、少なくとも日本のネット社会には大勢います。
民間人に対する攻撃は国際法違反ですが白燐弾であれば「煙幕として適切に使用した」と意図を偽ることで「その攻撃では被害自体が発生しえない」ということにして言い逃れができますし、「被害自体が発生しえない」という結論が先にありきで被害を訴える被害者や報道や人権団体の方を嘘つき呼ばわりすることでその言い逃れに自ら進んで加担してくれる人々も、少なくとも日本のネット社会には大勢います。
あるいはマスプロ的考え方もその一例としてあげられるでしょう。
マスプロ的には最高性能の専用品を多種類使用するより必要性能の汎用品を少数種類多目的に使用する方が生産においても兵站においても運用においても合理的です。
そして白燐弾は必要性能を満たす兵器であり、実際に戦場で焼夷兵器として利用されてきたわけです。
にも関わらず「焼夷効果を狙うならナパーム弾などもっと焼夷効果が高い兵器を使えばいい」というような感じでその現実の方を否定する人々がいるのが白燐弾報道否定論の実態です。
こういう「塹壕での格闘戦であればシャベルより手斧を使えばいいじゃない」とか「中戦車を使うより騎兵戦車と歩兵戦車を使いわければいいじゃない」というような「合理性」が戦場の現実を無視した机上の空論に過ぎないのは明らかだと私は思います。
私には白燐弾報道において被害者や報道や人権団体などを嘘つき扱いしている人々が何を考えているのかはわかりません。
しかし私の戦史に関する知識と照らし合わせても被害者や報道や人権団体などの主張の方が正しいことはわかりますし、それを嘘つき扱いする人々の方が机上の空論の「合理性」で現実の方を否定し他者を嘘つき扱いする罪を重ね続けていることはわかります。


後、私はこの記事を白燐弾が非人道兵器であることの根拠にしようとは思いません。
それは超兵器プギャーとか非人道兵器プゲラとか苦痛兵器wな人々と黄燐火傷による苦痛を思いやるような人権団体的価値観の共有はできないかもしれないと思うからです。
私は歴史修正主義者や差別主義者との論争の中で被害者の苦痛に対し思いやるどころかむしろ嘲笑うような人々を何人も見てきました。
白燐弾報道否定論を展開する人々の被害者や報道や人権団体の人々を嘲笑する姿を見ると彼らの心性はそういう人々と近いのではないかと思わされます。
私はそういう被害者の苦痛を思いやれないような種類の人間と人道について話し合おうとは思いませんが、それはそういう人々の心のありようの方の問題です。
それでも白燐弾の使用によりこのような被害が生じうるという事実認識は彼らと共有できるかもしれないと思ってこの記事を書いています。

追記(2011/11/18)

id:saloth_sarさんを含め誤解が生じた部分を追記修正しました。
この記事は「白燐弾では被害が発生しえない」と被害者や報道や人権団体の方を嘘つき呼ばわりしていた人向けの説明を意図した記事であることから追記したような部分は文脈から明らかだろうと考えていた私に落ち度があったことは認めねばならないと思います。
後、使用した画像そのものが懐疑の対象となったことからどのような経緯で撮影されたどういう状況の画像なのかについて記事を書きました。
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