90式はやっぱり高い

「国産兵器は同程度の性能の外国製兵器の二倍から三倍の価格」というのは日本の防衛政策に対する一般的な批判の一つです。
それに対する反論として、「国産戦車90式の価格は近年では1両8億円程度*1で他国の主力戦車とそう変わらない」というものがあります。
確かに現在のアメリカの主力戦車M1A2の価格は1両7億8000万円で、その改良型のM1A2SEPに至っては8億円を越える価格なわけで、主力戦車の価格自体は同程度。一見、「国産兵器は同程度の性能の外国製兵器の二倍から三倍の価格」という批判の前提を覆すかのような事態です。
しかし、この反論は妥当ではありません。
何故ならば、M1A2は車両用電子装置(ヴェトロニクス)に大幅な改良が加えられた革命的デジタル戦車だからです。
戦車部隊の各戦車が各自の位置や敵情報を共有するIVIS(車両間情報システム)、各車両位置や敵位置を把握するPOS/NAV(自己位置測定/航法装置)、加えて車長専用独立旋回潜望鏡搭載の赤外線映像装置CITV(車長用独立熱線映像装置)による索敵能力の向上。他のIVIS装置を搭載した部隊とも情報の共有が可能であり、それによる攻撃ヘリコプターや砲兵部隊との連携も可能。
これらの改良によりM1A2はM1A1と比較して、目標に照準するのに必要な時間は45%早く、目標を破壊するのに必要な時間では50〜70%早くなっています。車両位置把握能力の向上は無駄な移動を減らすことで移動能力の向上にも貢献しており、機動テストにおいてはポイント間移動時間はM1A1より42%も短くなっており、その際の走行距離は10%短くなっています。
このような改良の結果、M1A2はM1A1の二倍の能力を持つと言われています。対して、90式はこのような改良を受けていません。90式は優秀な第三世代戦車ですがM1A2と比べれば旧式であり、M1A2とは「同程度の性能」という条件を満たしていません。
90式と同程度の性能の戦車としてはM1A1の方が妥当であり、その価格は1両3億2000万円。
90式はM1A2と同価格帯でも高度な電子情報システムを装備しているM1A2の方が高性能。90式とM1A1は同世代で同じような性能ですが90式の方が二倍以上高価。つまり、「国産兵器は同程度の性能の外国製兵器の二倍から三倍の価格」という批判の前提は覆されていません。


そもそも、生産数がせいぜい数百両程度に収まる90式が生産数が8000両を越えるM1にスケールメリットで対抗できるわけが無いので、これはある意味、当然の結果というものです。
90式にM1A2に匹敵する改良を加える費用も、量産効果を考えれば、M1A1とM1A2の差額よりさらに高くつくこともほぼ確実でしょう。
主要参考文献:アリアドネ企画の本数冊

*1:現在では8億円をきっていた筈