消耗死と補給について

吉田裕による『餓死した英霊たち』評 - Apes! Not Monkeys! はてな別館コメント欄より。

みみずく 2007/03/02 12:26
めでたくwikipediaからはジンギスカンハウスの記述が削除されたようですが、Apemanさんの調査のほうは進んでおられますでしょうか。
せっかくですので、本文のほうにもコメントさせていただきます。
主張の方向性には異論ありませんが、主題である消耗死と補給について、戦史を学ぶものから見ると、ちょっと補足したくなる箇所があります。とりとめが無くなるので2点ほど。
消耗死について。古今東西を通して戦死よりも行軍や野営による消耗死のほうが多く、南方戦域での消耗死率も、日本史的に異例の割合であっても、世界史的にはありふれた数字です。
補給について。補給には調達・保管・輸送の3側面があり、水・食糧・飼葉に関して現地調達は(必要量をまかなえる限りにおいては)最善の調達手段です。
孫子にも「智将は敵に食む」とあり、ナポレオンの快進撃も現地調達が支えました。
二次大戦の日本軍では、島嶼方面では現地調達への過剰期待が悲劇を招きましたが、大陸方面での現地調達は概ね順調でした。
もちろん、インパール作戦は補給の本質を無視した暴挙だったこと、それ以上に戦争そのものが悲惨で不条理なことに変りはありません。

monro 2007/03/02 12:56
みみずくさん
お願いなんですが、日本軍は近代国家の軍隊として現地補給をし、その中で餓死者や戦病死者を出していたわけですから、せめて20世紀に入ってからの他国軍隊との比較で教えてくださいよ。

Apeman 2007/03/02 13:15
ちょっと追記しようとしていったん削除したら、monroさんからコメントを頂戴しているのに気づきました。というわけでコメントの順番が入れ替わってしまいましたが、議論の流れに影響を与えることはないと思います。


書店に出かけるたびにインパール作戦関係、ないし評伝の類を探して当たってはいるのですが、なかなか戦後について書かれたものは見つかりませんね。


古今東西を通して」という視点を忘れてはならないのはご指摘の通りだと思いますが、20世紀の戦争と中世、古代の戦争とを同列にならべるわけにもいかないのではないでしょうか? 例えばアレクサンダー大王曹操が自軍の兵士を餓死・病死させたといったはなしに対して「個々の兵士の死に思いを馳せる」ような感受性を涵養せよということではなく、いまだにご遺族が存命であるような、そして現在の政府と相当程度の連続性を持つ政府だった時代のはなしですから。
また20世紀の戦争でも「現地調達」が直ちに否定されているわけではなく正当な対価を支払っていればいいわけですが、ご承知の通り旧軍にはその点で多くの不備がありました(軍票の乱発により現地経済を混乱させたことを含め)。特に東南アジア、大平洋戦域では交戦相手でない国、社会にも被害を与えたわけですし。

みみずく 2007/03/02 17:46
私もまだ学習中の身であり、掲示板での議論には興味がありませんので、お勧めの本「補給戦(中央公論新社)」を紹介して消えます。
失礼を承知で書きますが Apeman さんに補給を語れるだけの知識はありませんよね?
定番の古典書です。軍事関連での主張を継続されるなら、かならず役に立つはずです。最近は勉強もしないで他人の主張を受け売りするばかりの輩が多いですが、簡単に論破できるようになります。


牟田口氏の件は、ぶっちゃけ有名なデマです。無批判に信じ、裏も取らずに故人を辱める当エントリ、早めに削除されてはいかがでしょうか。
失礼なことを書きまくっていますが、このコメントは削除していただいても構いません。
できることなら、ネットにデマを拡大再生産しつづける当エントリ丸ごと削除していただければ嬉しいな、と思って書いていますので。


追伸:
軍票についても多大な誤解があるようです。
簡単な調査と学習で、多くの誤解が解けると思いますので、こちらも調べてみることをお勧めします。

Apeman 2007/03/02 20:26
もともと「伝聞であることを明記」+「仮定のうえでのはなしであることを明記」した記述を撤回するだけの根拠を


「故人を辱める」というなら、ナポレオンのみならず孫子を引き合いに出してインパール作戦を論じることこそ餓死・病死した将兵を「辱める」行為でしょう。

くま(仮) 2007/03/02 21:10
>みみずくさん
 クレフェルトの『補給戦』はみみずくさんもおっしゃる通りたいへんよい本ですね(Apemanさんもおヒマでしたらぜひぜひ)。
 しかしながら敢えて異を唱えさせていただきますと、自分がこの本を読んで受けた感想は
>補給について。補給には調達・保管・輸送の3側面があり、水・食糧・飼葉に関して現地調達は(必要量をまかなえる限りにおいては)最善の調達手段です。
>孫子にも「智将は敵に食む」とあり、ナポレオンの快進撃も現地調達が支えました。
 というものから遠いのです。
 たとえば本書の記述によればナポレオンの快進撃は、現地調達が支えたというよりはむしろ、従来に比べて「より穏当な」現地調達が支えたものであるように思われます。具体的に言って、正式の主計官を現地に派遣して補給物資を準備させる、帳簿に記録を残し領収書を発行する……といった手法が。
 以下は全くの個人的な夢想ですが、仮にクレフェルトがインパール作戦を論じた場合、その舌鋒は恐らくApemanさんよりもはるかに歯に衣着せぬものとなろうと自分は思います。


>軍票についても多大な誤解があるようです
 日本軍の軍票が現地経済に与えた影響の方向性および程度について書かれた書籍ないし資料で、お勧めのものがあったらぜひ教えてください。読んでみたいと思います。

みみずく 2007/03/02 21:56
>くま(仮)さん
消えるつもりでいましたが、冷静なコメントをいただけたので、あと1レスだけ。
ナポレオンが従来より穏当、という指摘は的確です。しかしナポレオン以前を基準にするなら、日本軍の現地調達も穏当です。(それ以前が悲惨すぎるだけですが)
世界戦史においては、日本軍による現地調達が、史上最後の大規模な直接的軍事的収奪活動だったとも言えますが、それも東西の歴史的背景と発展状態の違い(鉄道網・自動車の有無・弾薬への依存度の低さ)が生んだ必然ではないでしょうか。
軍票については私も体系立てた知識があるわけでもなく、詳しい書籍を精読したわけでもないので、人様に語れるほどの知識はありませんが、ご参考までに基本的なところを幾つか記しておきます。
軍票とは軍に物資を提供した際に発行される領収書であって、支払いを保証するものではない。
軍票による徴発はハーグ陸戦条約にて認められている(現金決済ができない場合の代替手段として。しかし大抵の軍隊にカネがないのは常識)
軍票の意義の一つは、軍構成員による略奪を非合法化できたこと。軍票登場以前は、軍に現金が無くなったときに組織ぐるみでの略奪を肯定せざるを得なかった。
・人道的兵站で有名なアメリカ軍も、1970年代まで軍票を発行していた
・日本が軍票を決済していないのは、サンフランシスコ講和条約において戦勝国が権利放棄したことを根拠としている。(代償として各国「政府」に莫大な賠償金を支払っている)
・無秩序な軍票発行がインフレその他の害悪を撒き散らすのはは、マネーサプライと無関係に、非専門家により発行される軍票の本質的な弊害。日本軍固有の悪弊ではない。
・敗軍の軍票が換金されないのは珍しい話ではない。(収奪に際して略奪や暴行が伴わず、運が良ければ支払ってもらえるだけマシ)
戦争で戦争に手を染めた国は、ことごとく「悲惨」と「悪」とに手を染めざるを得ません。
にも関わらず戦争が「悪」と認識されるようになったのは、たぶんベトナム戦争以降でしょう。
それ以前の社会を生きた人々を、まして死者を、現在の価値観で裁くのはいかがなものでしょうか。
まだ戦争にロマンチシズムが息づいていた時代には、戦争における勝利は文明の栄誉ですらあったのですから。


>Apemanさん
私は断じて故人を辱める言動をしていません。

くま(仮) 2007/03/02 23:01
>みみずくさん
>世界戦史においては、日本軍による現地調達が、史上最後の大規模な直接的軍事的収奪活動だったとも言えますが、それも東西の歴史的背景と発展状態の違い(鉄道網・自動車の有無・弾薬への依存度の低さ)が生んだ必然ではないでしょうか。
 恐らく主張の骨子と思われるここについてですが、
 必然という言葉を「こうなったのには、こうなるだけの理由があったのだ」という意味で使っておられるのならば、かなりの部分同意できます。
 「しかたがなかったのだ」という意味で使っておられるならば同意できません。
 あくまでも自分の狭い知見の範囲内ではありますが、「日本軍の現地調達には当時の(日本政府および陸軍の少なからぬ要人の)価値観においてすら『ゆきすぎ』とみられるものが少なくなかった」と思われるからです。


 軍票については自分もこれから調べてみようと思います。

D_Amon 2007/03/03 17:53
>みみずくさん
クレフェルトの『補給戦』は補給において輸送力をかなり重視していて、北アフリカ戦線でのロンメルに対する戦略面での批判の根拠は輸送能力の限界を無視した補給の要求と進軍にあったと記憶していますが。(近世以前のような輸送力の乏しい時代から近代のような輸送手段の発展した時代への補給の形態の変化も本書の醍醐味の一つというものでしょう)
その観点から見れば『補給戦』は日本軍を正当化するどころか、むしろその駄目さを強調する根拠になると思います。
ガダルカナルニューギニアなど太平洋戦域における日本軍の展開は輸送力的に楽観視しし過ぎな軍事的行動だったわけで、近世以前の戦争での現地調達の記載をもって『補給戦』を日本軍の現地調達の正当化に用いるのはおかしいというものでしょう。
ガダルカナルなんかは日本からもアメリカからも遠く離れた島でしたが、日本軍の方はあの惨状だったわけで、(お分かりとは思いますが)消耗死は現地調達の問題というより輸送の問題というものです。
食料の現地調達にしてもベトナムのように現地の人々に大量の餓死者を出すような状況になっていたわけで、「大陸方面での現地調達は概ね順調でした」とするのは、それで日本軍の必要量をまかなえたとしても、あまりにも問題のある行為ではないでしょうか。
現地の人々の生活を破壊するような現地調達といい、近世以前ならともかく近代戦を戦う軍隊としてはありえない数の消耗死(まさしく、近代戦においては異例の割合)といい、日本軍の補給戦における問題は明らかで、それに対して、「古今東西を通して戦死よりも行軍や野営による消耗死のほうが多く、南方戦域での消耗死率も、日本史的に異例の割合であっても、世界史的にはありふれた数字です」とか「ナポレオン以前を基準にするなら、日本軍の現地調達も穏当です」とかいうのは「当時の日本軍は近代戦を戦える軍隊ではなかった」という意味では必然ではあっても、「近代戦を戦った軍隊」としては必然ではありません。
日本軍の現地調達や消耗死は「近代戦を戦った軍隊」としては問題のあるもので、それが非難されるのは当然のことというものでしょう。
「それ以前の社会を生きた人々を、まして死者を、現在の価値観で裁くのはいかがなものでしょうか」というのは、当時の日本軍の行動を正当化しようとする意図をもつ言葉と受け取れるわけですが、当時の日本軍は「近代戦を戦った軍隊」として同時代比較でも非常に問題のある行動をしていたわけで、裁かれてやむなしと思います。

みみずく 2007/03/04 01:08
>D_AMon さん
最近は稚拙な論理展開で旧日本軍の戦争を肯定しようとする輩も多いですが、そういう手合いは私も大嫌いです。反論の術を持たない他者を容赦なく悪者扱いすることで善人面しようとする輩と同様に、です。


装備の話をされているので、装備の話で返しますが・・・
「当時の日本軍は近代戦を戦える軍隊ではなかった」とは的確な表現です。
限りある資源を海軍装備に回し、火砲・戦車・トラックなどの陸軍装備は重視されず、結果として陸軍は装備も兵站も近代化されませんでした。
しかし陸軍は大陸で戦果を挙げ続け(同時に前近代的な悲惨も生み続け)、結局は海軍の破綻が敗戦の原因となりました。
先に書いた文の「必然」を補足しますが、日本には全軍を近代化するだけの資源や工業力がなく、大陸では前近代的な陸軍でも十分に役立つことから近代化が遅れ、その時点で開戦を回避することができなかった。その必然として「史上最後の大規模な直接的軍事的収奪活動」が発生した、という意味合いです。
擁護も批判もしているつもりはありませんが、私の信条が気になるのであれば、ご自由に想像いただければと思います。


>Apemanさん
ちょっと煽り気味のコメントを書いたことはお詫びいたしますので、早急に「信頼できるソース」または「調査中である旨の注意書き」を本文中に追記いただけないでしょうか。
議論をしているうちに、例のキーワードで検索すると当エントリがGoogleの上位に表示されるようになってしまいました。私は当エントリには2度と書込みませんが、適切な対処が行われることを切望しています。

Apeman 2007/03/04 11:59
みみずくさん
ちょっと不可解なのですが、あなたは「デマ」であるとする根拠をご存知なのではないですか? あなたが「デマ」だとおっしゃるから私は調査のうえ然るべき対応をとると申しあげたわけですが、私の調査をまてないとおっしゃるのならみみずくさんなりのご調査の一端を披露していただければあなたの意に添う結果になるのではないですか? 上にも書きましたが、あなたが「デマだ」とおっしゃったから「はいそうですか」はおかしいでしょう? べつに取り消したくなくてゴネているのではありません。うっかり断定的な書き方をしていたのであればすでに取り消すなり適当な付記を行なうなりしたでしょう。しかし書いたものを引っ込めるからには引っ込めるだけの根拠を知りたい、と考えているだけです。

D_Amon 2007/03/04 18:43
みみずくさん
何故に装備の話と解釈されるのでしょうね。
まあ、装備の問題もありますが方法の問題の方が大きいでしょう。
大井篤の「海上護衛戦」を読めば分かるように、輸送の方法が悪かったために米軍の通商破壊活動で容易に輸送船を沈められて補給を断たれ、また計画段階で補給の目途が立たないのに無理な進軍を強行することで徒に多大な消耗死を引き起こしたのですから、それらが裁かれるべきなのは当然というものでしょう。
過酷な軍事的収奪活動にしても補給の目途が立たないのに無理に進軍したのが原因の一つで、現地に送られた兵士が生き抜くためにそのような収奪活動を行なったことには同情の余地はありますが、計画段階で無理なことが明白な進軍を強行した人々が裁かれるべきなのは当然というものです。
陸海軍ともに兵站を軽視し無理な作戦を強行した結果の(近代戦においては異例な)消耗死と軍事的収奪なわけで、無理な作戦を強行しなければ多くの人が犠牲にならずに済んだのです。
無理な進軍の結果、戦線が崩壊し、その立て直しを図る際に敵に降伏することも許されずに前線に置き去りにされ餓死したり病死したりした人の身になって考えれば、そういう作戦を強行した人々は到底許すことができないのではと思います。
貴方の話は「装備的に仕方がなかった」と読めるわけですが、装備的に無理な作戦を強行することも十分問題のある行動です。


>結局は海軍の破綻が敗戦の原因となりました。
日中戦争の拡大と国民党への補給路を断つための軍事的展開が勝ち目の無い対米戦争の原因なわけで、大本を考えれば陸軍の無謀が敗戦の原因というものでしょう。海軍もそれに協力していたので同罪というものでしょうが。
海上輸送において陸海軍が仲違いしつつ、それぞれ独自に輸送船を運用するなんてことをし、輸送用に「陸軍空母」や「陸軍潜水艦」を運用するなんてことをしていたのを考えれば、そんなことをしなければならないほどに陸海軍が対立していた日本軍の体質の方も問題ですね。陸海軍は仲が悪いのが相場とはいえ。


>そういう手合いは私も大嫌いです。反論の術を持たない他者を容赦なく悪者扱いすることで善人面しようとする輩と同様に、です。
日本の戦争責任を追及している人でそういう人はいるんですかね。まあ、いるのかもしれませんが。
むしろ、あれこれ理屈を捏ねて「仕方がなかった」論をぶつことで当時の戦争責任者を免罪しようとするような人がいるから、「仕方がなかった」なんてことはなく明白な人災であったことを説明せざるをえないのではと思いますよ。

eichelberger199 2007/03/07 18:32
すでに退去を宣言されている方ですので、これは独り言です。軍票というものが、ご指摘のようなものだとすると、


>・軍票とは軍に物資を提供した際に発行される領収書であって、支払いを保証するものではない。
?・軍票による徴発はハーグ陸戦条約にて認められている(現金決済ができない場合の代替手段として。しかし大抵の軍隊にカネがないのは常識)
>・軍票の意義の一つは、軍構成員による略奪を非合法化できたこと。軍票登場以前は、軍に現金が無くなったときに組織ぐるみでの略奪を肯定せざるを得なかった。


 軍票が、軍が徴発をしたことを示す領収証にほかならないとすれば、「軍票で何かを購入する」というのは、経済的にはまちがった表現ではないということですね。軍票それ自体には交換価値はない。
 だとするとですね。先の戦争中に日本軍の慰安所慰安婦から性的サービス受け、それに対して軍票で支払いをすると(南方戦線ではほとんどが軍票で支払われました)、これは経済的には、役務を徴発したのであって、売買ではないということになります。つまり、「商行為だった」とか、「ビジネスだった」とかいう言い方は、軍票の何たるかを知らない無知な言説だということになりますね。

eichelberger199 2007/03/07 18:34
訂正です。


誤記
「「軍票で何かを購入する」というのは、経済的にはまちがった表現ではないということですね。」


正しくは、
「「軍票で何かを購入する」というのは、経済的にはまちがった表現だということですね。」


謹んで訂正いたします。

文中、私の発言の「楽観視しし過ぎ」は「楽観視し過ぎ」の誤り。